第7話 コラボ配信2日目
今日も今日とてスタジオへ向かって歩く途中、セレナがひっきりなしに話しかけて来るので人通りが少なくて助かっていた。
『マスター、昨日は中の人に会ってみてどうでした?普段画面の中にいる人が目の前にいるんですよ?』
「別になんとも思わないかな。あ、ただ中の人とガワの乖離が少なくて別の人って思えて逆によかったかも。」
渚の言い回しに疑問に思ったのかセレナが質問をしてくる。
『それって逆じゃないんですか?中の人とガワが似ているから推しに会えて嬉しいって普通は思うと思うんですが。』
「俺としては、違いすぎるほど会った時に悲観するって考え。昔、声優が顔出しせずに声だけで勝負していたのと同じ感覚かな。受け取り手によってイメージは作られちゃうから。
V-GATEの方針として本人に似てるガワを使ってるから良かったというわけ。だから推しに会ったというよりコスプレをしている人として見れたという。」
『なるほど!人って複雑ですねぇ。私としては同一存在としか思えないのでそのあたりの機敏に疎いです。』
「ま、俺としては中の人などいないっていうスタンスで行きたいけどな…」
『そういう考えだったら確かにガワと似てる=コスプレイヤーさんってなって違う目線で見れそうですね!』
Vtuberの中の人問題は人によって考え方が違うから一概にこう、とはセレナに教えられんからな…柔軟な発想が出来るように導くのは難しい。まぁ…セレナは主至上主義になりそうで怖いのが現状だ…。
『それで、今日はどうする予定ですか?』
「後でまた説明するけど、今日は街の中の探索だな。
ゲーマーの見たいところは戦闘、自由度、グラフィックと大きく3つに分かれている。グラフィックはPC性能に合わせて細かく弄れるから人による。戦闘は昨日見せられた。つまり、今日は自由度だ。」
自由にストーリーを紡げるゲームは多々あるが、自由というのは難しい分野だ。レベル制の場合はフィールド毎に適正というものがあるから結局進める場所は限られる。
ただし、アクション性の高いゲームでの自由となると推奨レベルなどお構いなしに進むため、製作陣の想定していないバグが発生したり、人によっては指標がないと何をしていいのか分からなくなってしまう。
『そうなるとマスターが悩んでいたNPCの挙動部分に関わってきますね。ランダムイベントがどう発生していくのか私、楽しみです!』
NPCとの会話やイベントを自然なものにするために大人数のオープン鯖は出来なかった。人によって悪役・冒険者・商人・生産職などプレイの仕方が変わるため、後から始めた場合に居座り辛くなって過疎る可能性があった。
そのため、個別やグループで遊ぶことで問題が解決出来たのは嬉しい誤算だ。
セレナと話しているとスタジオ前まで来ていたようだ。昨日と同じ様にマネージャーの明石さんが待っていた。
「お待ちしておりました。今日もよろしくお願いします。」
「こちらこそ。中で待っててくれても大丈夫でしたのに。夏前ですがそろそろ日差しも強くなってきますし。」
「いえいえ、昨日の感じからして待ち合わせ時間から大きくずれる事がないと分かっていたから待っていたのですよ。それではご案内します。」
明石さんに促され、昨日と同じ様にカードを受け取り中へ入る。まずは打ち合わせということで顔合わせをした小会議室へ案内された。
「「「おはようございます。」」」
中へ入ると演者3人から挨拶があった。そういえば現場の挨拶ってどの時間帯でもおはようございますだよな。
「おはよう。打ち合わせと言っても素のリアクションが欲しいから細かくは言えないけどどうするか…」
そこで明石さんから意見があった。
「大まかな流れだけで大丈夫ですよ。」
「そうか…とりあえず昨日は戦闘やキャラの反応を見せられたと思うので、今日は街での散策にしようか。何が起こるか俺自身も分からないし。」
そう言うと演者3人は不思議そうな顔をして聞いてきた。
「開発者の方が分からないのですか?」
「このゲームの肝はランダム性で、1人1人が違う物語を紡げること。配信で見たからやらなくていいやとならず、同じゲームをしているのに全然話が違う、となる事でリスナーを飽きさせないという事を大事にしている。
まぁ大都市や大まかな地形は一緒だが、ダンジョンが発生したり魔物が溢れて地形も変わるから時間が経つことで変化がでるけど。」
「配信者にとって後追いは致命的だもんねー。流行りそうなゲームを調べて開始時間にすぐやらないと指示厨やネタバレも溢れて来るし。」
「キノの言う通りだわ。企業勢だとある程度数字が欲しいから本当にやりたいゲームをするってのは難しいのよね…」
企業勢、個人勢でそれぞれ強みが違うから上手く住み分けが出来ているともいえる。マイナーゲームになるほど個人勢が配信している。
「それを考えるとナギサさんの開発したゲームは本当に配信者向けですよね。あとVtuberのことを考えられていますし。そういえば…このゲームの名前はなんなのでしょうか?」
「そういや名前を付けてなかったか…バーチャルリアリティシミュレーター(VRS)で良いんじゃない?」
「そうですね。タイトルというのは分かりやすいに越した事ないですから。どんなゲームか一目瞭然です。」
明石さんからも後押しがあったのでそのタイトルで行くことにした。
「じゃあ結局、適当に街中を散策すればいいのかしら?」
「それぞれがしてみたい事を昨日言っていたから、それに関してかな。散策しながら生産、冒険者協会を見に行く感じ。あとは街中でどうイベントが発生するかを見てもらう予定。」
「あら、生産も今日やらせてもらえるのですか?それでしたら私は定番ですが料理か薬品を作ってみたいです。」
「冒険者協会ってもしかして新人チェックみたいなの来るかなー。ベテランっぽいやられ役に絡まれるやつを生で見てみたいかも?」
土宮モウは料理・薬品、キノは冒険者協会か。
「水野ネズとしては何か見たい物はあるのか?」
俺が聞くと少し悩んでから答えた。
「だったら…ゲーム内だけど服とか見てみたいな。所謂ウィンドショッピングね。ほかは屋台の食べ物が気になるかしら。」
「このゲームは服に関しても企業が入り込む余地を残しているから、そこを宣伝するのもありだぞ。
食べ物に関しては…見た目から感じ取れるようになってるせいで毒物が混ざっていたとしても美味しく感じてしまう。つまり、洗剤で洗った米だとしても美味しいと感じる。品質は落ちるがな…砂糖や塩等の調味料に関しては生産で試してみてくれ。」
宣伝費はかからないけれどVRMを作る手間はある。だが、服の見た目を装備に反映させられるのでモデリングをしてしまえばブランドとして宣伝する事も可能である。
ちなみに、セレナによって俺はVR機器を作る企業といくつか服のブランドの大株主になっている。先見の明というよりマッチポンプだけどな…俺もセレナも2D資料がきちんとしていれば3Dにすることが可能なので、依頼が来ても問題はない。
「へぇ…それは楽しみね。昨日、終わった後に服アバターを皆弄ったから配信映えするわよ!」
衣装事に複数の3Dモデルがあるのは企業勢の強みだ。個人勢だとLive2Dでの衣装切り替えになるのがほとんどなのだ。
その後、現場に移り最終チェックを各人行い、配信をスタートするのだった。
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