第6話 コラボ配信1日目終了

 コラボ配信が終わり、俺達はそれぞれドームから脱け出す。


「皆さんお疲れました。」


「マネージャーもおつ!いやぁ最後はやられちゃったけど楽しいね!」


「それにしても、最初は男性とコラボは心配でしたが自然に受け入れられましたね。」


「次は最後まで攻略してやるんだから!そのために…アンタ、情報くれない?制作者なんだから余裕でしょ?」


 水野ネズがこちらを威圧するようつり上がった目を向けてきたのだが1つ疑問があったので聞いてみた。


「配信が終わったのに性格を偽るのって疲れない?そういう態度を取るより、ゲームの中で見せていた揶揄われたり、猪突猛進気味の素が良いよ?」




 ナギサの問いかけに対し、ネズはひどくビックリしていた。なぜ今日会ったばかりの人が分かるのかと。


「V-GATEのライバーはガワを極力、素に近づけている。それは配信で偽り続けることによる性格の乖離を防ぎ、ストレスを少なくする為と思っている。だけどネズは違う。」


「あ、あんたに何が分かるのよ!!」


「無理しているのが表情でわかるよ。ゲームの時の伸び伸びとした所が見られない。まぁあの生意気なメスガキっぽい演技は流行りではあるけど男女ともに好かれるのは難しいし。」


「ネズちゃん、やっぱり無理してたんだ…あたしも普段より、ゲーム中のネズちゃんのが一緒に遊んでて楽しかったよ?」


 キノから指摘されたことでネズは顔を俯いてしまった。


「じゃあどうすれば良かったのよ!私の配信だって最初はこんなんじゃなかったわよ!でも…でも!」 


 本人が望んでいない配信をしているのか?しかし、V-GATEは評判も良いと聞く。


「ネズちゃん、もしかして登録者数を気にしてたのかしら…?私達は仲間なんだから気にしないわよ?」


 俺はモウを手で静止し、ネズに向き合う。


「確かにキャラが確立した2人よりは少ないが問題はそこじゃない。水野ネズはゲームの感じからして真面目、一生懸命、反省点を生かす性格からエゴサをよくするのだろう。水野ネズとして苦しむ原因となったのは【イメージと違う】からじゃないか?」


 ナギサの言葉によりネズはビクッとする。


「あたし、頭が良くないから分からないんだけど…そこが問題になるの?」


「なる。こんな経験はないか?小説を読んだり挿絵を見たりして自分の中で声を当てないか?そして、アニメ化した時に感じるはずだ。思っていたのと違う、と。」


 キノとモウは少し考えて思い返すと、確かにアニメを見た時にガッカリする事あると思った。




「水野ネズというキャラはつり目、少女というより更に幼い幼女、露出が少し多めな服装、そして喋っている時に微かに見える八重歯、アニメ声ではないが普通の女性より高めの声。聞いた要素だけでどういうキャラになる?そう、今の水野ネズという形に収まる。周りから求められるキャラ像を押し付けられている。」


「確かにその情報だけあったらネズちゃんが演じているようなメスガキ風になるわ…その前情報だけで女性は見ない可能性があるわね…」


 ここから素を出せるかどうかだが…問題はない。すでに土台は整った。


「今日のコラボで本当の水野ネズが出せたのだろう?コラボというのは基本的に他の姿を見せる事でリスナーを楽しませる側面もある。今日、水野ネズのリスナーは楽しんでくれていたか?普段と違う姿に落胆していたか?」


「…し、していなかったわ。」


「だろう?後からエゴサをすると思うが今日の姿は男女ともに受け入れられる。まぁエゴサを気にしすぎると演技の幅を狭めるから諸刃の剣だけど。」


「わ、た、し…もうメスガキのように演じなくていいの?」


「最初はリスナーも戸惑うだろうが、コラボの影響で吹っ切れたと考える人も出て来るんじゃない?」


 ネズは目に涙を溜め、俺に正面から勢いよく抱き着いてきた。身長差がないため顔が真横にあるのでとりあえず背中をトントンと叩く。




「なにやらこちらの事情に巻き込んでしまってすみません…もっとしっかりとライバーの意見を取りいれてサポートするべきでした…」


 そうは言うがV-GATE自体まだ新しい企業だし、特に2期生の応募を進めていたんだから人手不足もたたったんだろうな。順番を間違えたって事だ。


「俺も配信見るの好きだからライバーが楽しくしてくれるほうが嬉しい。というかそろそろ離れろ。こら、腕に力を入れるな。」


 顔が見られたくないのか背中に回された腕に力を入れているようだ。


「はいはいネズちゃん離れましょうねぇ。」


 モウが引き剥がすことでようやく離れてくれた。もう涙は止まっているようだがこちらをチラチラと小動物の様に視線を向けて来る。多分、恥ずかしい行動だったというのがよぎっているんだろう。


「今回のコラボで既存の人物像を崩したことだし、安心して良いと思うぞ。」


『掲示板を見る限り良好そうです。』


 セレナがそう言ってくれるなら平気そうだな。


「しっかし…背が小さくてつり目だとツンデレとかメスガキ風の印象になるってのは大変だな…人の評価による職業は俺には無理だ。」


「元々、V-GATEは家庭の事情や周囲に問題があった人の支援を行っていたのです。一応、本人たちに運営サイドか演者か決めてもらいますが…」


「まぁ今回の事を教訓としてもっと密にケアを行うべきだね。ただ、その場合は同性じゃないと難しいかも。演者と異性のマネージャーってなるとリスナーも勘繰るだろうし。それじゃ俺達はこれで。また明日同じ時間によろしくお願いします。」




「行っちゃったね。ネズちゃんごめんね、あたしも自分で精一杯で気づけなくて。」


「大丈夫よ…マネージャーだって言ってたでしょ?皆何かしら抱えてんだって。今回は私の問題が浮き上がっただけ。それに…コラボのおかげで素が出せる道筋を立ててもらえたんだから。」


「それにしてもネズちゃんが男の人に抱き着くなんてねぇ。傍から見たら小学生同士にしか見えないからすごく微笑ましかったわ。」


 自身が小さい事を気にしていたネズも傍から見て普通の大人の男性だったら何かと問題になっていた事に気が付いたので、この時ばかりはお互い背が低くて良かったと心の中で思った。


 ネズは背が小さくて声の質感から、異性に話しかけると女性には媚びている声色に聞こえてしまうようで、仲間外れ、虐めに発展したため不登校になった経緯がある。

 虐めをしてきた女達が嫌がる女を演じてストレスを発散していたが、やはり本来の性格と逆な為、演じるのに疲れてきてしまっていた所に今回のコラボだ。


 男は媚びて来る女に嫌な感情を持つ者は少ないので、スタジオに来た男の子?も同じだと思ったのに思惑と違う反応ばかりされ、最初は怒りを感じたが、終わってみれば忖度なしで本来の自分を見つけてくれたことに感謝をした。



「だとしても…Vのガワにしか興味をもたれないのは嫌!」


「どうしたの突然!?っていってもリスナーとしては正しい対応だと思うよー?」


「そうねぇ。中と外を完全に切り離しているって事かしら。それなら中の人に恋人が出来ても炎上にならないし良い事じゃない?」


「うんうん、配信中に恋人といちゃつくって場面がなければ平気だねー。全部のリスナーがそう言う考えだったらVtuberの炎上ネタも減るんだろうけど。」


「ま、まぁ明日もあるんだし気持ちを切り替えるわよ!!」


「強がり乙ー。」


「乙ーですわ。」

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