第5話 コラボ配信1日目
一通りの確認が終わり、ようやく洞窟の探検に入る。ダンジョン生成がランダムな為、初期でも極悪なものを引く可能性があるが、ライバーからしたらそれはそれで撮れ高だと思うのでナギサとセレナは黙っていることにした。ちなみに公式アカウントの撮影は明石さんが担当している。
「公式さんは後ろから全体を映すほうがいいかな。視線以外の部分も映したい場合は1人称視点から3人称視点にできますよ。」
『音声認識ですね!一応視線内にUIを好きに配置できるのでそれぞれでカスタマイズしてくださいね。』
「あとは一定の行動をショートカット登録出来るよ。ダンスのエモーションとかさ。他には攻撃モーションとか。音声もしくは意識を向けて押すUI操作か選べるし。」
「運動苦手な私でも助かる機能ですね。皆さんと探険に行く場合はきちんと登録しておこうかしら?」
「うんうん、必殺技名を叫びながら傘振り回したりするのと同じ感覚だよ。」
ピシッっとなんか空気が凍るような音が響く。
:ヤメロ…ヤメロ…
:その技は俺に効く…
:あの時は若かったなぁ…
「つよつよネズちゃんはそんな機能使わなくて大丈夫よ!」
「え?カッコいいじゃんあたしは音声認識にするかな!」
「ちなみに誤動作を防ぐために一定以上の音量が必要だから頑張って。ニチアサのヒーローが叫ぶ感じの。」
べた褒めしていたキノですら凍り付いてしまった。流石に攻撃動作を行う度に叫ぶのは色々と問題があるそうだ。しかし、声がでかい人やつっこみ系の人には需要が見込めるんじゃなかろうか。
そうこうしゃべりながら進んでいると前から猪型の魔物が現れたので、俺と公式さんは離れてアドバイザーとしての役目を果たすことにした。
「見ての通り猪型なので一番の脅威は突進かな。」
『避けられる俊敏さがあって回り込めると良いですね。』
キノとネズは持ち前の運動神経を発揮し、避ける事に成功したがモウは正面からまともに突進を受けてしまい壁まで吹き飛ばされてしまった。モウと衝突することで勢いを殺されてしまった猪型は初期装備のナイフや剣(切れ味が悪い)で滅多刺しにされている。
:モーーさーーーん!!
:え、大丈夫なのあれ!?
:うぁ…幼女つぉい
:キノは幼女と言っていいのか?
:これは確かにレーティング設定必要だわ…
「切れ味が良くないせいで猪君すごく大変な目にあってるね。」
『絵面がやばいですねぇ…人間危機に陥るとなりふりかまいませんよね。』
動かなくなるまで滅多刺ししていた2人は肩で息をしていた2人はモウの安否を確認するために駆け寄る。
「モーさん大丈夫!?あんな敵、私達が倒したわ!あなた達、私が華麗に倒したの見た?」
「モーさん衣装の破損…こうなっちゃうんだ…」
:かれいとは?
:煮付けやホイル焼きが有名
:えっっっ!!
:タイツの破れ方が事後!
「いたたた…派手に吹っ飛ばされましたが、かなり衝撃が緩和されていますね。」
「トラックがぶつかるレベルの吹き飛び具合だったのに凄いなぁ!今までのVRって回避や棒立ちで敵に攻撃とかあるけど、敵の攻撃に質量なかったもんね。」
「ほんと、あの猪があげていた悲鳴は癖になりそう。触感があるだけで没入感ハンパないわね!」
ゲームで没入感を上げるためには5感を満たす必要がある。しかし、視覚、聴覚、触覚はまだしも、味覚と嗅覚は難しい。
案はあるのだ。例えば錯覚という現象がある。長さは同じ線でも太さ、始点と終点の違いにより異なる長さに見えるというものだ。つまり、人は視覚の情報に影響を受けやすい。そのことから熱そう、冷たそうという印象、美味しそう、匂いが漂ってきそうという認識を持たすことが可能だ。
「触感があるからトラウマになると思ったけど、案外図太いのかな?」
『没入感があっても実際はゲームなんですし気にしてないんじゃないですか?』
「まぁ未来的には脳波で全て満たせるものが出来るだろうね。そうなるとゲームとリアルを混在する人が出て来るから法整備が必要か。」
:すっごい真面目に解説してるけど前!前!
:一度体験すれば対処出来るのはゲーマーの鏡
:敵が奥からいっぱいあふれてくりゅ
:ノーダメは難しいのか、みんなちょっとずつ衣装破けてる
:ふぁーこれだよこれ!
「ふぅ…戦闘音で奥からいっぱい来たわね。ま、私にかかってみればこんな奴ら経験値にしかならないわ!」
「とか言いながらネズちゃんの衣装、結構破けているよ?というあたしも満身創痍みたいになってるけどさ。」
「はいネズちゃん、先ほど手に入れた毛皮のケープ着ましょうね。」
「くさ!?ちょっとモーさんこれ獣臭いの!私汚れキャラじゃないんだから!そーいうのはキノにやってよ!」
「あら、複数枚あるから大丈夫よ?」
「ちょ、モーさんこっちにも持ってこないで!いやぁぁぁ!!」
:実際は嗅覚ないんだろうけど画面越しでも臭そう
:見た目から臭いが補完されてんじゃね?
:こーれゾンビが出てきたら鼻捻じ曲がるやつ
:クリティカルヒットしてなかったが蓄積でもちゃんと破けるんだな
「敵を倒すとドロップ品が出る、解体がなくてもいい仕様だ。」
『倒した状態によって品質は変わりますけどね。確定ドロップじゃないので丁寧に倒してもお金しか出ないことがあります。』
ライバーの三人はどんどんと先へ進んで行く。先ほどから進んでいる迪は人が3人並べるくらいの細い道なのだが若干の下り傾斜があることを足先で感じた。少しずつ傾斜が急になってきたところでおあつらえ向きの横に道のある丁字路が見えてきた。
「分かれ道ですがどうしましょう?」
「あ、真っすぐは行き止まりみたいだけど宝箱があるね!」
「宝箱!?やっと冒険らしくなってきたわね。それにしてもあの宝箱、すごく、大きい。興奮するわ。」
:はいもう一度
:もっと照れて言って?
:公式配信、ちゃんと解説してて助かる
:ナギサと公式さん丁字路の所から見ているな
:あ、モーさんが手招きされてる
「単にネズちゃんが小さいだけじゃない?あたしはボス部屋やボス位置特定アイテムの入ってる宝箱ならこのくらいあってもおかしくないと思うし。ゴマダレ―って言いたくなる。」
「あのゲームね、私もやったことあるわ。実寸大だと確かにそうよね。よいっしょ!鍵はかかってなかったわね。」
開けた際にカチッと音がしたのだが宝箱に夢中な2人は気づかなかったようだ。
「おぉ!ワクワクするね!て底の方に腕輪が2つあるだけじゃん…」
「あらほんとね、んっしょ!くっ、私じゃ届かない…キノ任せたわ!」
:公式さんもうちょいアングルを下からお願いします!!
:みえ、みえ…
:公式さんを困らせるな!画面酔いする!!
:逆にモーさんは2人の脚に目を向けててナイス
:なぁ、なんか音が響いてないか?
「仕方ないなぁ、よっと!あれ?なんか自動で装備されちゃったのかな?ってこれ宝箱にくっついてる!!ちょっと、ネズちゃん助けて!」
宝箱に入っていたのは腕輪のようだったが、手錠の様に箱にくっついていたのだ。両手を拘束されたキノは慌ててネズに助けを求めた。しかし、キノの腰を掴んで思いっきり引っ張っても全然抜けそうにない。逆にキノの体は箱に少しずつ吸い込まれていく。
「っく!全然抜けないじゃない!何よこれ!」
「いたたた!!!ネズちゃん!ズボン脱げちゃう!脚にして!!」
「文句が多いわね!少しぐらい見られても平気でしょ!」
言葉とは裏腹にネズはどんどん吸い込まれていく状況に焦っていた。すでに上半身が宝箱の中に入り、脚を持つしかない状態だ。
「えっと、なにか転がってくる音がするんですが大丈夫なのでしょうか…?」
「これは2重トラップだね。殺意高いなぁ。」
『これ、時間が経ったあとは敵Lvの上限高い所でしょうね。片方は完全なデストラップですし。』
:慌ててる2人とそれを見てる3人の温度差すごい…
:ここで地形観察が生きて来るのかぁ…
:お、おい!キノちゃん完全に宝箱に入っちゃったぞ!
:フタ、閉じましたね…
:同人ゲーだったらあの中触手だろ…
:あ、ネズちゃん転がってきた岩でぷちっと逝った…
多分、ネズとキノの画面には【YOU LOSE】と表示された頃だろう。
「まぁゲームオーバーでも苦痛はないけどトラウマにはなりそうだよね。」
「恐怖心は残りそうですわね…でもトラップに気をつけたら防げるってことですか…」
『どのゲームでも対策は真理ですから。罠解除があれば大丈夫でしたね。』
「いかにも怪しげな宝箱を無警戒に開けたからなぁ。ちなみにやられると初期スポーン場所に出るよ。」
『ただし、アイテムはやられた場所に落とします。』
「さ、合流して〆に入ろうか。」
俺達はアイテムを回収し、入口へ引き返した。途中、猪型の敵が現れたがナギサがヘイトを取り、モウへ戦いのコツを教えながら順調に進んだ。
入口にたどり着くと2人は荒れていた。
「うがー!!なんなのよあれ!もっかい挑戦してやるわ!フラグ乙ってなによ!こ、今回はたまたまよ!」
「あはは…冒険って確かに危険と隣り合わせだよね、油断したなぁ。え?もっと考えて行動しろって?ちょっと楽しくて浮かれすぎたねぇ…ズボン脱げそうなとこ切り抜かないで!」
リスナーと交流しているのか先ほどやられた事に対して振り返っているようだ。
「とりあえず1日目のコラボはこのくらいで終わりかな。」
『いい時間ですし区切りとしても十分かと。』
「今日は見に来てくださりありがとうございました。明日も今日と同じ時間からコラボ配信いたしますので時間がある方は是非見に来てください。」
「モーさんいつも丁寧で助かるー。みんな今日はありがとね!どうだった?あたし達のプレイを見て少しでもやってみたいなって思ってくれたら嬉しいな!」
「お小遣い沢山ありがとね!これでいっぱい可愛いネズちゃんを見せてあげる!え、分からせられたくせに?はぁぁ!?誰がよ!今日は相手に譲ってあげただけ!アドバイザーから情報を得る、そう手段よ!最後に勝つためのね!」
「はい、それでは「「「お疲れ様でした!」」」」
:おつかれー!
:楽しかった!
:これ絶対流行るっしょ!
:コラボは普段見せない姿見れて助かる
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