第21話 ボスモンスターの討伐 そして、、、。

 我々はゴブリンとフェンリルを撃退し、さらにダンジョンを進む。




「ダンジョン攻略って、ただモンスターを倒すだけで良いのか?」


 私はリーネに問う。


「いいえ、ボスモンスターを倒す必要があるわ」


「なんだそれ?」


「ダンジョンの最も奥に生息する強力なモンスターよ」


「ほう……なるほど」



 しばらくすると、再び開けた空間に出た。



 奥の方で何かの足音と唸り声がする。



 音の主が、我々の存在に気付き近寄ってきた。



 たいまつの明かりによって、徐々にその全体像が照らし出される。身長は約3m、青い体表に覆われた筋肉質な体、口から生える鋭い牙。



「オークだ!」



 コイツと戦うのは、異世界に来てから3度目か……。


 数は4匹。いつもの前衛と後衛に分かれ、戦闘に突入する。


「いいかアテナ、相手がオークだからといって恐れる必要はない。先ほどと同じように、冷静に処理するのだ」


「はい!」




 戦闘は烈々たるものであった。まず、前方では、オークとジョエル達の攻防が発生する。



「これより先にヤツらを通すな!」



「任せろ! ダス・ウォール」



 掛け声やオークの唸り声、そして武器のぶつかり合う音が狭い空間に反響する。彼らは数的劣勢を跳ね返し、見事に敵の猛攻を受けてめていた。



 後方では魔法の詠唱が始まる。リーネとアンの足元に魔法陣が展開され、ダンジョン内を照らした。



「ダス・ウィンド!」



「ダス・レイ!」



 2人の声と共に、矢と閃光が放たれ、ヤツの胸を貫く。



「よし、これで8体目!」



 そして、最後には、2発の凄まじい爆発音が辺りに轟いた。そう、秋山とアテナが放った火縄銃のものである。オークは音を立てて地面に崩れ落ちた。



「よくやったアテナ」



「はい!」



 全てを殲滅し、戦いは終わる。辺りは静けさに包まれ、硝煙の匂いが充満していた。


「これで終わりか?」


「いいえ、まだ奥に道が続いているわ。ボスモンスターはその先よ」



 どうやらダンジョンはまだ続くらしい。


 途中、数度のモンスター襲撃を撃退しながら、奥へと進んで行く。




「また広い空間に出たな」


「ええ、おそらくここがボスモンスターの間……」


 ……奥の方からさわさわと音がする。


 何と形容すれば良いだろうか、その音を聞くと本能的な危険信号が発せられるような気がした。




 徐々に近づいてくる……。



 闇の中に、不気味な光沢が浮かぶ。おそらく、たいまつの明かりを反射しているのだろう。



 

 我々との距離およそ15m、その存在がうっすらと見えてきた。



 果たしてどんなモンスターだろうか。私は目を凝らしてその存在を見ていると、隣から女性陣の悲鳴が耳に飛び込んできた。




「きゃああああああああああっ!」



「たく、うるさいなあ。モンスターより君たちの悲鳴に驚かされたじゃないか」




「そ、そんなこと言わないでください。だって、あ、あ、あ、あれ見てくださいよ!」


「そ、そうよ。鳥肌が……」


「うげぇ、気持ち悪い!」


 アテナ、リーネ、アンは相当に怯えていた。



 その正体が私の目にもはっきりと見えた。



 これは……全身を覆う外骨格、無数の足、刃物のような牙。



「巨大なムカデだ!」



 そう、大ムカデも大ムカデであった。全長10mほどだろうか。体の半分を持ち上げて我々を威嚇してきた。



「あれはアースロプレウラだ」


 ドルジが口を開く。


「ほう……」


 ギルドの情報によると、その外骨格は鋼鉄並みであり、肉を腐らす毒を武器とする。脅威度はオーガと同等かそれ以上である。





「皆、気を引き締めて行くぞ!」




 

 戦闘が始まる。


「大いなる大地よ。母なる大海よ。我の願いを申し上げ奉る。我が剣に力を与え給え……ダス・ブレイド!」


 ジョエルの全力を込めた一撃が放たれる。


 辺りには金属と金属が激しく衝突する音が反響する。


「クッソ!」


 外骨格は恐ろしいほど固かった。火花を散らして剣を弾き返したのである。


「傷一つついてないじゃないか……」


「もっと強力な魔法が必要だ!」


「アンよ、リーネの攻撃にエンハンスを付与するのじゃ」


 ドルジが提案する。


「オッケー、行くわよアン!」


「はい!」


 双方が詠唱を始める。


「母なる大地よ、風よ。我の願いを申し上げ奉る。我の弓に力を与え給え……」


「母なる大地よ、豊かなる大海よ、大いなる天空よ。我の願いを申し上げ奉る。彼女に力を授けえ……」


 彼女達の足元には魔法陣が出現し、武器には魔力が込められていく。

 


 リーネがアンに目で伝える。



 準備出来たわよ!


 了解です。


 

 アンが杖を上に掲げて、言葉を発する。



「ダス・エンハンス!」



 リーネに魔力強化が付与された。体の周りには赤いオーラが発生し、彼女が放つ風は勢いを増す。



 ありがとうアン! 



 リーネは、一呼吸し、全神経を両手に集中させた。



 よし、準備完了。



「ダス・ウィンド!」



 彼女の声と共に放たれた矢は赤い閃光のように線を引き、アースロプレウラへ向かって一直線に飛ぶ。



 お願い! 貫通して!



 結果は一瞬であった。吸い込まれるように直撃した矢は、外骨格を……






 ……傷つけることは成功したのだが。




 致命傷を負わせるには至らなかった。



 矢は体に突き刺さり、黄色い血液が垂れてきた。ヤツは怒り狂い、咆哮する。



 そして、リーネは嘆いた。



「なんで!! なんで倒せないの!!!」


 私とアンの全力なのよ……。



 落胆するも束の間、ヤツが動き出した。



「おい! 攻撃が来るぞ、避けろーー!」


 紫色の液体が射出され、彼女達に襲い掛かる。


 間一髪、直撃を避けることが出来たが、リーネのローブに跳ね返りが付着する。


「くそっ!」


 その液体の正体は猛毒だ。皮膚に触れるとタダでは済まない。


 彼女はそのローブを脱ぎ捨てた。




 我々は体制を立て直し、膠着状態となる。




「おい、どうやって倒す?」


 ジョエルがジョンに問いかけた。


「うーん。どうにかしてヤツの柔らかい下腹部に攻撃を入れるしかないか……」



 皆、如何にして眼前の敵を倒すか話し合っている。やはり、一筋縄では行かない相手らしい。


 私はアテナの元へと足を進める。



「アテナよ」


「は、はい!」


「あの怪物は、君が倒すんだ」


「えぇ! 無理ですよ……」


「いいや、大丈夫だ。私の言うとおりにやれば必ず倒せる」




 火縄銃の性能について、少し補足しよう。



 前回、装填速度に関して弓に劣るという話だったが、貫通力なら話は変わる。


 2005年に、歴史群像編集部および日本前装銃射撃連盟によって行われた実験を紹介しよう。

 

 この時、火縄銃から放たれた球は、距離30mにおいて1mmの鉄板を2枚重ねた標的を貫通し、厚さ48mmの檜の合板に約36mm食い込み、背面に亀裂を生じさせたのである。


 使用する球の大きさや火薬の量によって左右されるが、貫通力に関しては、この実験が示すように絶大な威力を発揮するにだ。





 場面は戻り、アースロプレウラとの戦闘



「通常よりも火薬を多く込めるんだ」


「わ、分かりました!」


 そう、火薬の量を増すことにより、威力が増大する。アテナは装填作業を急ぐ。


「出来ました!」


「よし、ではヤツにプレゼント鉛玉を送ってやれ」


「はい!」



 彼女が銃を構え、照準を定める。



「では、打ちます!」



 引き金が引かれた。今までの射撃音と比較して、より一層大きな爆音が響く。




 射出された弾丸は、アースロプレウラの外骨格を打ち砕き、絶命させるに十分な打撃を与えたのである。




 そして、ヤツは息絶えた。




「やったーー! やりましたよご主人様!」


「素晴らしい!」


 ジョエル達も駆け寄ってくる。


「凄いな嬢ちゃん!」


「信じられん。なんという威力だ」


「いやあこれで一件落着」


「…………」


 この時、リーネだけは喜びの表情を見せなかった。




 こうして、我々はダンジョン攻略に成功したのである。



~~~~~~~ 帰り道にて ~~~~~~~


 我々は険しい道を歩く。右手には切り立った斜面、左手には深い谷が流れている。そんな山道を進んで行く。


 時刻はもうすぐ夕刻、日が傾いていた。




 リーネが俯いて歩いている。


「どうしたんだ? 元気ないじゃないか」


「……別に」


「いいや、明らかにおかしい」



 少し間をおいて口を開く。

 


「……負けた」


「勝負のことか? 倒したモンスターの数は君の方が多いだろう。だから君の勝ちだよ」


「そういう問題じゃない!」


 強い口調で言い返してきた。


「何むきになってるんだ?」


 それ以降、彼女は黙った。


 まあ、理由は良くわからんがそっとしておいてやろう。




 我々はさらに道を進む。


「ご主人様……」


 アテナが不意に口を開く。


「どうした?」


「人間の生体反応と思われるものが感知されています」


「何だって!」



 私は歩を止めて、横にいるアテナの方へ体を向ける。




 すると、視界の端の方で何か光るモノが見えた。




 その瞬間……




 左肩に衝撃を受けたと同時に、突き上げるような痛みが私を襲った。



「うぐっ……」



「え、ご、ご主人様……。う、う、うわぁああああぁぁ!!」



 アテナの悲鳴が聞こえる。



 一体何が起こったのだ、肩が燃えるように熱い。



 その違和感のある部分を右手で確認すると……。



 ……何か、刺さってるのか。これは……血。

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