第20話 いざダンジョンへ

 近年、ルシタニア王国では、ダンジョンの急増が報告されている。この問題は、モンスターの大量発生を引き起こし、国家の衰退に拍車をかける深刻な問題であった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ダンジョンで勝負よ!」


 リーネの言葉によって、ダンジョン探索に向かうことになった。目的地は、ルシタニア王国北部に存在する、森林地帯である。メンバーは、いつもの7人。私とアテナ、それとシュバルツだ。


 前回と同様、ギルドにてクエストの受付を済ませる。相変わらず受付嬢には、危険だと忠告されたが、政治的視察の一環ということで通してもらった。


 目的地までは馬に乗り、街道を北へ北へと進んで行く。大河を越え、荒れ地を越え、我々は進む。慣れない馬の旅、体中が筋肉痛となり悲鳴を挙げた。結局到着まで、王都から丸2日掛かった。



 眼前に広がるは広大な森林、奥にはフィレネー山脈が霞んで見える。手つかずの自然、澄んだ空気、私は旅の疲れを癒された。しかし、その壮大で美しい光景とは裏腹に、モンスターが跋扈する危険地帯でもある。




「まずはダンジョンを探しましょ!」


 我々は森の中へと入って行く。ここは、前回行ったフィオネの森以上に鬱蒼としていた。周りには巨木がびっしりと立ち、陽光を閉ざしている。辺りは薄暗さに包まれ、奥の方は濃くて深い闇が支配していた。


 耳に入るは、時折鳴く鳥の声、風に吹かれ木々の揺れる音、そして我々の足音だけであった。


 そんな森の中、ダンジョンの痕跡を探しながら注意深く進んで行く。




 30分ほど歩いただろうか、ジョエルが足を止める。




「これは……ゴブリンの足跡だ」


 彼が言うには、この先にダンジョンが存在するらしい。


 それに沿って足を進めると、遂に発見した。


 目の前の斜面には、人間が余裕で通れるほどの穴がぽっかりと開いている。


「これがダンジョンよ!」


 この穴はどれほど続いているのだろうか…。少なくとも、入り口から奥は見通せない。我々はたいまつに火をつけ、準備を行った。陣形は、ジョエルとドルジを前に、リーネとアンそして我々が続き、ジョンが後ろを守る。




「良い? 出来るだけ多くのモンスターを倒した方が勝ちよ!」


 リーネから勝負のルールを伝えられた。


 ……微力を尽くすとしよう。



 そして、いざダンジョン内へと足を進める。内部は冷気が立ち込めており、少し肌寒い。もう入口の光はほとんど届かない、たいまつの明かりだけが頼りだ。


「ご、ご主人様、怖いです……」


 ダンジョンの持つ異様な雰囲気にアテナは怯えていた。


「心配するな。君が手に持つ、その武器の力を信じるんだ」


 この時、私だけでなく、アテナも火縄銃を携帯していた。


「は、はい!」


 そんな会話をしていると、かなり空間の広い場所に出た。学校の体育館ほどの広さだろうか、ダンジョン内にこんな広いスペースがあるとは……。


 すると、前方から複数の足音が接近してきた。


「来るぞ!」


 ジョエルの声と共に、警戒態勢に入る。



 闇の中から、その正体が飛び出してくる。




 ゴブリンだ! 狼に騎乗した個体も存在する。



「フェンリルに乗ったヤツも居るぞ! 気を付けろ!」



 どうやら、あの狼はフェンリルと言うらしい。なかなかすばしっこくて厄介そうだ。


 敵の内訳は、通常のゴブリンおよそ30体、フェンリル騎乗個体は20体ほどである。



 前衛のジョエルとドルジが戦闘に入る。



「デア・インフェルノ!」


「デア・ストライク!」



 彼らが敵を足止めしている。援護せねば!



「ダス・ウィンド!」



 リーネが早速攻撃を始めた。放たれた矢はゴブリンに直撃する。



「まず一匹! ふふっ、あんたには絶対負けないから!」



 彼女はとことん勝負にこだわっており、次々と敵を射止めていく。


 

 勝負の前に、まず行わなければならないことがある。アテナの緊張を解いてやらねば。



「アテナ、一回射撃の練習をしよう」



 私は、勝負に躍起となるリーネを横目に、アテナのそばへ寄る。



「は、はい!」



「まずはこうして……」



 射撃の手順を説明する。



 そして、準備が完了すると、彼女が銃を構える。



「敵を引き付けろ。焦っては駄目だ」



 一匹のゴブリンがこちらに近づいてくる。



 彼女の銃を持つ手は震えている。


 

 それに気づき、私も銃を支えサポートする。



「大丈夫だ。落ち着いて狙え」



 彼女の真横に密着して、手を添える。




「よし! 今だ」



 引き金が引かれると同時に、轟音が轟いた。そして、弾丸が射出され、小柄なゴブリンの頭を吹き飛ばす。



 この途轍もない音と光景を見たモンスター達は怯んだ。



「よくやったアテナ」



「はい! ご指導ありがとうございます!」



 そして、リーネもこちらを振り向き言葉を発した。



「たく、相変わらず凄まじい威力と音ね……。て、あんた! サボってないで勝負しなさい!」



「分かった分かった」


 

 私も銃を手に取り、戦闘に参加する。


 その後、順調に戦闘が進み、ほとんどのモンスターを討伐した。数匹は取りこぼしてしまいダンジョン内部へと消えたが、まあそれは仕方ないだろう。



 結局、倒したモンスター数は、リーネが7体、私が4体だった。



「ふふんっ。今のところ私優勢みたいね。やっぱりその武器、威力は凄まじいけど装填速度は大したこと無いわね」


 リーネが上機嫌にそう言った。



 確かに、彼女の言うことは一理ある。火縄銃には、弾込に時間がかかるという弱点があった。


 対して、弓は速射性にすぐれている。戦国時代の合戦では、銃撃後の隙をうめるために、『防ぎ矢』といって弓矢で弾幕を張っていた。


 そう、火縄銃は、完全に弓を超越するほどの武器では無い。




 しかし、この武器の本質は単純な性能比較に有らず。




 考えてみて欲しい、弓を使いこなせるようになるには、どれほどの時間がかかるだろうか? やはり、幼少期から十年単位で修練を積む必要があるだろう。


 対して、火縄銃はどうだ? 突然徴用された農民でも、わずかな期間で習得が可能である。現に先ほどのアテナが証明している。武芸の心得が無い者や力の無い女子供でも、短期間の訓練によって弓の上級者に匹敵する力を得ることが可能である。


 これが火縄銃の本質なのだ!



 

 ……しかし、こんなことリーネに面と向かって伝えると、絶対拗ねる。


 だから、黙っておくことにした。




 そんなこんなで無事に戦闘は終わり、我々は、さらに奥へと足を進めるので

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る