第16話 ギルドとクエスト

 皆さん御機嫌よう。


 先日、アテナにルシタニアパネットーネを買って来るよう注文した秋山真之あきやまさねゆきである。当の彼女は、そのスイーツでは無く、とある伝言を持って帰って来た。



 あんた達、クエストに行くわよ!



 そう、リーネからの伝言である。腕組みをしながら私を呼びつけている姿が脳裏に浮かんだ。


 ……これを無視すれば殴り込みにくるだろうな。まあ、政治顧問として冒険者事情を知ることも重要だから、付き合ってやるか。




 ということで、初のクエストに挑戦することになった。その前に、王立科学協会へと寄り、最近完成した新兵器のプロトタイプを見に行った。


「これが例のモノか……」


「へい。実験では問題無く作動致しやした」


「素晴らしいでは無いか! 少し借りても良いかな。」


「大将のお好きなようにしてくだせえ!」



 せっかくのクエストだ。新兵器のお披露目と行こうでは無いか。



「さあアテナよ、行こう」




 王宮の外へと足を進めると、門の出口付近で複数人が輪になって話し込んでいた。


「あれは貴族か……」


 すると、我々の存在に気付き、引き波のように消えていった。


「なんか感じ悪いですよね!」


 最近派手に活躍したから目を付けられたか……。これは警戒する必要がある。


 


 その後は特に変わった様子も無く、待ち合わせ場所のギルドへ到着した。重厚な扉を開けて中へと入る。


 ギルド内は、クエスト受注に来た冒険者で溢れていた。そして、新参者である我々は、一斉に注目を浴びることになった。


「おい、アイツら新入りか?」


「いや、知らん」


「それにしても、女の方はえらいべっぴんじゃねえか」


「おい、声かけてみようぜ。」


 イカツイ恰好をした冒険者グループが我々の方へやって来て口を開いた。


「おい姉ちゃん、新入りか?」


「そんな男とじゃなくて、俺らと一緒に冒険しねえか?」


 アテナは少し恐怖を抱き、私の後ろへと隠れた。


「あいにく彼女は私の連れなんだ。申し訳ないが諦めてくれ」


「なんだと!?」




 冒険者が声を荒げ、一触即発の危機となった。




 ギルド内は騒然として、緊張感に包まれた。





 すると、聞き覚えのある威勢の良い声が部屋に響いた。


「はいはい、少し静かにしなさい! あんたったら、行く先々でトラブルに巻き込まれるわよね」


 赤い瞳をした黒髪美少女が奥の方からやってきた。そう、彼女こそがクエストに誘った張本人、リーネである。


「リーネさん!」


 アテナが嬉しそうに声をあげた。


「この人たちは、我々シュバルツとクエストに行く約束をしているの。だから、諦めてちょうだい」


「ちっ、なんだよ…」


「行こうぜ」


 彼女のおかげでイカツイ冒険者は諦めていった。

 



 リーネは奥の座席へと案内してくれた。そこで、シュバルツのメンバーと再会した。


「よお! 元気だったか?」


「はははっ。しばらくぶりだったな」


 リーダーのジョエル、盾使いドルジ、槍使いジョン、魔導士アンと軽い挨拶を交わした。そしてリーネに関しては……。


「あんたたち、クエストとかギルドに関して色々教えてあげるから! 感謝しなさい!」


 いつも通りの調子であった。


「いやーリーネの奴、今日のことが余程楽しみだったみたいで、ここ最近ずっと張り切ってたんだよ」



 ジョエルのやつ、果たしてそんなこと言っていいのか……。



「うるさい! 別に楽しみになんかしてないから。今度変なこと言ったら、どうなっても知らないわよ!」


「は、はい! すみませんでした!」


 案の定、檄が飛んだ。





 そして、リーネがギルドを案内してくれることになった。


 「まず、ここがクエストの掲示板よ」


 なるほど、様々なクエストが張り出されている。その一部を紹介する。



 王都郊外におけるゴブリン退治 

 報酬 2万デナリウス   難易度 初級冒険者以上


 オスティア村周辺のオーク退治

 報酬 10万デナリウス   難易度 中級冒険者以上


 ランヌ公爵 別荘の庭における草抜き

 報酬 1万5千デナリウス  難易度 初級冒険者以上


 フィレネーの森に発生したダンジョンの攻略

 報酬 20万デナリウス   難易度 上級冒険者以上



「そしてこっちは受付よ。受注したいクエストの張り紙をここに持って来て、正式な手続きを行うの」


「中々良く出来ているものだな」


「最後に2階よ。ここはギルド直属の武器やポーションの売店になってるの」


 我々はしばらく商品を見学させてもらった。



 鉄の剣

 値段 8千デナリウス 


 鋼の剣

 値段 1万5千デナリウス


 木の盾

 値段 5千デナリウス


 魔鉱石

 値段 5百デナリウス


 魔術師の杖 低級

 値段 1万デナリウス


 ポーション 中級

 値段 1千デナリウス



 リーネの案内により、賃金や物価について様々な知見を得ることが出来た。やはり、実際に自分の目で確かめることは重要である。


 

「ありがとうリーネ。色々勉強になったよ。」


「リーネさん、ありがとうございます!」


「う、うん。感謝しなさい!」




 ギルドの案内は終わり、クエストの話になった。


「そう言えば、一体何のクエストを受けるのだ?」


「フィオネの森での魔獣退治よ!」


 フィオネの森、それは王都からほど近い場所に存在する小規模な森である。近年、魔獣の発生が確認され、その数は次第に増加していると報告されている。


「ここから近いし、難易度も低いから丁度良いでしょ」


 こうして、リーネの采配によりクエストが決定した。我々は、クエストの張り紙を持って受付へと向かった。


「こんにちは。クエストはお決まりですか?」


「うん、これでお願い!」


 手続きは順調に進んだが、途中で身元確認が行われた。


「えーと、後ろのお二人は初めて見る顔ですね。冒険者手帳を見せていただけますか?」


 え、手帳が必要なのか……。と困惑していると、リーネが口を開いた。


「この人たち持ってないから、発行してあげて!」


「あ、はい。では、冒険者手帳の登録と発行を行いますね。」


 受付嬢は、登録用紙を取り出し、私とアテナに差し出してきた。少し面倒ではあったが、名前や性別、使用魔法などのプロフィールを書き込んだ。


「はいありがとうございます。えーと、さんとさんですね……」


 我々の名前を見て少し沈黙した。


「あきやまさねゆきさんとアテナさんって、まさかあの政治顧問の!?」


「そうであるが……」


 なんと、我々の名はギルドのいち受付嬢にまで轟いていた。名前が売れることは非常に結構なことである。


 しかし、困ったことに今回はそれがあだとなった。なんでも受付嬢が、死なれると困るからクエストを受けないで欲しいだの、冒険者手帳を発行しないだの、言うのである。まあ気持ちは分からんでもないが、ここまで来て引く私では無い。


「今回、このクエストを引き受けるのは、政治的視察の一環である」


「は、はい……。そういう事なら、許可します。」


 受付嬢には申し訳ないが、政治権力を使用させてもらった。





 それに、王宮に居るよりも、クエストを引き受けている方が安全かもしれない……。





 そんなこんなで、初めてのクエストが始まった。


「さあ、ついてきなさい!」


 我々はフィオネの森へと向かった。

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