第15話 危機一髪! アテナ初めてのおつかい 後編
リーネの活躍によって暴漢は去った。
「ううっ……ぐすっ……。ほ、本当にありがとうございました。」
「良いのよ。ところで、どうしてこんなところに居たわけ?」
アテナはここに至るまでの経緯を説明した。
「かくかくしかじかで……」
「つまり、ルシタニアパネットーネを買いに行く途中で迷ったと……。 ……あんたって結構ドジなのね」
「うぅっ…」
リーネさん、辛辣です……。
「まあ良いわ。もう今日は帰りなさい。日も傾いてきたわけだし」
「いいえ、買いに行きます」
「こんな出来事があったんだから、帰って休みなさい」
「行きます」
「別に明日行っても良いじゃない?」
「今日行かないとダメなんです!」
「……あんたって、見かけによらず頑固なんだね」
お仕事で忙しいご主人様の為です! なんとしても買わないといけません!
「はぁ……、分かったわ。私もその店までついて行ってあげる」
「え!? 良いんですか?」
めちゃくちゃ助かります! リーネさんって意外と優しいのかな……?
「ま、まあね…。丁度その辺に用事もあるから」
「ありがとうございます!」
こうして、アテナとリーネは目的地に向けて足を進めた。彼女たちが大通りに出た時には、地平線の先に太陽が沈みかかり、オレンジ色の光が街を包んでいた。
「ああ、もうこんな時間に…。ご主人様、お腹空いてるでしょうね……」
「まあ良いじゃない。たまには空腹になって、食べ物の有難みを実感すれば良いのよ」
「で、でも……」
「それとも買い物が遅れたから怒られるってわけ? もしあいつがそんなことしたら、コテンパンにするから!」
「いえ、ご主人様はそんなことしませんよ。……それにしても、リーネさんってお優しいんですね! 初めてお会いした時はもっと怖い人かと思いました」
「は、はあ? 別に優しくないわよ」
彼女はそう言って、足を少し早めた。
大通りには、晩御飯の買い出しに来た主婦や、クエスト終わりの冒険者たちが溢れている。彼女たちは、その人混みをかき分けながら進んで行った。
「そう言えば、リーネさんの魔法凄いですね! かっこよかったです!」
「ふふっ、ありがとうね。でも、まだまだ修練が必要だわ。最低でも上級魔法を扱えるようにならないと……」
少し憂いのある表情で、空を見上げた。
今の時点でも十分凄いのに、どうしてさらに力を求めるんでしょう……。
「どうして強くなりたいんですか?」
リーネは少し考えてから口を開いた。
「……それは、もっと力があれば、と後悔した経験があるからよ」
「どんなことがあったんですか?」
「ごめん……。それはあまり言いたくないわ」
「はっはい! 変なこと聞いてごめんなさい」
リーネは手を叩いてこう言った。
「はいっ、この話題はもう終わり。ところで、見て欲しいものがあるの」
そして、ポケットからハンカチを取り出したかと思うと、空高くに放り投げ、呪文を唱え始めた。
「風よ、我に力を……。ダス・ウィンド!」
すると、ハンカチが蝶のようにひらひらと舞いだした。花柄の美しい紋様には、夕焼けの光が反射していた。
道行く人々は、その幻想的な光景を見て足を止めた。この王都の空に現れた美しい蝶は、見る者の心を掴んだのである。アテナも同様にその光景に釘付けとなっていた。
「凄い……。とても綺麗です!」
「でしょ! 気に入ってもらえて良かったわ」
アテナとリーネの性格は真反対であるが、なぜか馬が合うらしい。目的地に着くまで大いに会話が盛り上がった。
「でさ、ジョエルがすっころんだのよ!」
「あはははっ。もうジョエルさんは何やってるんですか」
「あ、そうだ。ジョエルの話で思い出したけど、あんたの主人て一体何者? あの
あー、これは誤魔化さないといけませんね……。異世界転生に関する事は黙っていて欲しいとのご主人様からの言いつけですから。……エリスさんごめんなさい!
「あはははっ……、実は私も良くわからないんですよね~。ごめんなさい!」
「……あんた嘘ついてるでしょ。」
「ギクッ!」
「ふふっ。嘘つくの下手すぎ。顔に出過ぎよ」
「ご、ごめんなさい」
「まあ良いわ、何か事情があるんでしょう。またあんたの主人とっ捕まえて聞いてみるわ」
「お、お手柔らかにお願いします」
そうこうする内に、目的地であるルシタニアパネットーネの店までもうすぐの所まで来た。
「ここの角曲がったところが、その店よ」
「はい!」
アテナは小走りで角を曲がって、店の前に立った。
「あれ……」
彼女の目には、ある張り紙がうつった。
ルシタニアパネットーネは、ご好評につき完売致しました。
「……ガーーーーーーン」
「ま、まあ元気出しなさい……」
こうして、アテナの初めてのおつかいは無事? に終わったのである。
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