第14話 危機一髪! アテナ初めてのおつかい 前編

 王立科学協会の立ち上げも一段落した頃……。



 ご主人様から頼み事を受けました。その崇高な使命、何としても完遂しなければなりません!


 そう意気込んでいるのは、金髪碧眼の美少女アテナである。何やら秋山から頼み事をされたらしい。


「ルシタニアパネットーネなるスイーツが気になっている。ぜひ買ってきてくれないか?」


「はい、私に任せてください!」


 ここ最近、ご主人様はお仕事で忙しそうなのです! ここはぜひお役に立たなければ!




 こうして、アテナは初めてのおつかいに挑戦することになったのである。




 彼女は、買い物かごと財布を握りしめて街へ出ると、左右を見渡しある事に気づいた。


 ……これは困りました。私は、アンドロイドですから一度訪れた場所は記録媒体に記録をして、難なく行くことは出来ます。しかし、本日の目的地は初めてなので、ご主人様から頂いた地図だけが頼りです。迷わず行けるでしょうか…。


 一抹の不安を抱きながら、足を進めた。


「この大通りを右に曲がってと…」


 すると、横から声がかかってきた。


「よう姉ちゃん! 今日はこの魚の干物が安いよ!」


「す、すいません。今ちょっと別のモノを買う用事で来ているんです」


「まあそう言わずに。この干物は日持ちするし、ぜひ買っていきな。それに、姉ちゃんはべっぴんだからまけといてやるよ」


 値引きしてくれると! これは買うしかありません。


「では買います!」


「はい、800デナリウスね。まいど!」


 思わぬ収穫がありました。これは今晩のおかずにでもしましょう。



 さあ、早く目的地に行かないと。



 と、彼女が再度足を進めると、また声が掛かってきた。


「そこのお姉さん、ちょっと待ちなされ。そなたには悪霊が憑いておる」


「あ、あ悪霊ですか!?」


「そうじゃ、そなたの後ろに邪悪な色情霊しきじょうれいが見える」


 し、色情霊ですか! それって、いわゆる、その…エッチな幽霊ってことですよね……。


「その霊は周りの者にも悪影響を与える。早く対策をした方が良いな。」


「ど、どうすれば良いんですか!?」


「その霊は非常に力が強いから、並みの方法では払えんの。……しかし、特別にこれを売ってやろう。偉大な聖職者が製作した効果絶大の御札じゃ。値段はなんと1万デナリウス、大特価じゃぞ」


 い、1万デナリウスですか……。決して安い金額ではありません。しかし、ご主人様にも被害が及ぶかもしれません。ここは、買っておかなければ。


「買います!」


「はははっ、ありがとうの」


 その後も、彼女は次々と声をかけられた。


「パン買ってかない?」


「この野菜が美味しいのよ」


「これはドラゴンの睾丸だ!滋養強壮に良いぞ!」


 人の良い彼女は言われるがままに買った。気付いた時には、両手には山ほどの商品を抱えていたのである。


「はぁっ、はぁっ、つい買い過ぎてしまいました。早く目的地に…」



 そう言って地図を広げると、タイミング悪く強風が吹いた。春一番だろうか、台風に匹敵するほどの風であった。最悪な事に、持っていた地図は風にあおられ、天高くへ舞い上がってしまったのである。


「あぁっ! まずいです、早く追いかけないと!」


 彼女は地図が飛んで行った方向へ駆け出した。どうやら、路地の奥の方へと飛んで行ったようである。迷路のように入り組んだ道をひたすら進んだ。




 しかし……




「最悪です……。地図は見つかりませんでした…」





 無いものは仕方なく諦めるしかなかったが、ここで更なる問題が発生した。





「……そういえば、大通りにはどこから出れるのでしょうか。」





 そう、複雑な路地で迷子となったのである。彼女は途方に暮れながらしばらく彷徨っていると、後ろから足跡が聞こえてきた。後ろを振り返ると、若い3人の男が後ろを付いてきていた。





 これはまずいです…。変な人に目を付けられてしまいました。





 そう危険を感じ、足を速めた。





 しかし、大通りにはなかなか出ることは出来ず、不安と焦りの気持ちはさらに大きくなっていった。





 そして、最悪な事に、次の角を曲がった先は行き止まりであった。後ろを振り向くと、もう男たちに追いつかれていたのである。





 あ……。





「よう、姉ちゃん。こんなところで何してんだ?」



「か、買い物です」



 男たちはゆっくりとアテナに迫ってきた。彼女も後ろへ退いて距離を取っていたが、遂に行き止まりまで追い詰められたのである。



「い、一体何の用ですか?」



「何の用って……。気持ち良いことするために決まってんだろ」




 その言葉を聞き、男たちが普通では無い事を悟った。この場は強引にでも逃げた方が良いと判断したのである。



「嫌です! 通してください」



 一か八か、男たちの間を突破することに賭け、彼女は走り出した。



 すると、男はある言葉を発したのである。


「奴を抑えよ。ベトイヴェン!」



「ぐ、はぁ……」



 その言葉と当時に、アテナは地面に倒れ込んだ。身体が麻痺し、動くことが出来なくなったのである。



「さすが兄貴!やっぱり魔法は凄いですねえ」


「俺は元冒険者だからな。この程度の魔法は造作もない。しかし、すぐ効果が無くなるから、早く取り押さえろ!」


「は、はい!」


 男たちはアテナを取り押さえた。


 幸い身体の感覚はすぐに戻ったため、精一杯抵抗した。しかし、女性の力では成人男性に全く敵わなかったのである。



「は、放して!!」



 抵抗する彼女を男たちが取り囲む。



「暴れんなよ」





「やめて!!!  だ、誰か! たすk」






 大声で助けを呼ぼうとすると、口を塞がれた。



「あんまり騒ぐと、どうなっても知らねえぞ?」



 男はそう言うと、ポケットからナイフを取り出し、彼女の目の前に突き出した。





「ひっっ……」





 刃物で脅迫され、もう彼女の抵抗する意思は潰えた。




「そうだよ。大人しくしとけ」




 男の手がアテナの胸に伸びてきた。



 

「やめて……、やめてください……。」




 彼女の服のボタンが一つまた一つと外されていく。男たちの気分は最高潮に達した。


「兄貴、こんな上物、滅多にお目にかかれるモノじゃないぜ」


「顔もスタイルも満点だ」


「もちろん俺が先に頂くからな。お前らは手出すなよ」




「うっぐ……。ひっく……。お願いします、や、やめてください……」




 誰か、助けてください。神様お願いします……。



 もう彼女は、泣いて祈ることしか出来なかった。





「こいつ泣き出しましたよ」


「嬉し泣きじゃないか?」


 男たちの笑いが路地に響く。



 彼女は、今から自身の身に降りかかるであろう運命に絶望していた。もう終わりだと諦めかけていた。





 

 と、その時であった。





「あんたたち! 今すぐやめなさい!!」



 女性の声が路地に響いた。


 聞こえてきた方向に目を向けると、黒いローブを纏った黒髪の少女が立っていた。


 男たちは各々口を開いた。


「なんだぁ、てめぇ? お前も犯されたいのか?」


「こいつも中々の獲物だ。兄貴、とっ捕まえようぜ」


「はははっ。お前らの好きにすれば良い」



 黒髪の少女は呆れたように口を開いた。


「あんた達、痛い目見ないと分からないわけ?」



 そう言うと、ローブの下から弓を取り出した。



「あ、兄貴ぃ。ヤバいですよ!」


「騒ぐな、俺は元冒険者だ。あんな奴の放つ弓なんざ、防御魔法で防ぐことが出来る」



 黒髪の少女は笑みを浮かべた。


「へぇーー、元冒険者なんだ。じゃあ手加減は無しね。」


 そう言って、言葉を続けたのである。




「母なる大地よ。風よ。我が弓に力を与え給え……」




 彼女の周りに魔法陣が出現し、強風が吹き始めた。



 その光景を見て、男たちは焦りに焦った。



「奴は魔法を使えるのか!」


「やばいですよ!」


「その服装……。ま、まさか、シュバルツのリーネか!?」


「うふふっ。その通りですわ」


「まじかよ……。確か奴は中級魔法を扱えたはずだ。」 


 男たちは、目の前の少女が自身よりも強者であることを悟った。そして、全てを諦め、路地の奥へと足を進めたのである。


「くそがっ。」


「せっかくの上物が……」


「貴様、覚えていろよ」


「いつでもかかっていらっしゃい? 今度は容赦しないわよ」






 こうして、路地は平穏を取り戻し、リーネはアテネの元に駆け寄った。



「あんた、オーク討伐の時に居た金髪巨乳女じゃない? こんなところで何してたの?」



 絶望から解放されたアテナは、感情を爆発させた。



「う゛ぇぇーーーん! 怖かったですーー! 助けてくれてありがとうございますーーーー。」


 そう言って、リーネの胸に飛びついた。


「ちょっちょっと。分かったから一旦落ち着きなさい」


「う、うぇぇーーん。ぐすっ、ひっく」


 泣き終わる気配の無いアテナを、リーネはそっと抱きしめた。


「よほど怖かったんですね……。もう大丈夫ですよ」




 こうして、危機は去ったのである。

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