第13話 王立科学協会

 『科学』は近代国家を建設する上で欠かせないものである。特に魔法という超常的な力が存在する異世界において、只人ただひとが生き残るためには必要不可欠である。


※只人 魔法を使用出来ない人類の総称である。


 したがって、科学の発展を促進させ、異世界における優位性を確立せねばならない。その第一歩として、王立科学協会は創設された。


 ここには、総勢100名を超える職人が集められ、あらゆる実験器具や研究設備が揃えられた。この地にて、近代科学の産声が上がるのであった。


 そして、この私、秋山真之あきやまさねゆきは初代所長に就任し、創設の式典にて以下のように挨拶をした。




 皆さん、御機嫌よう。初代所長に就任する秋山真之である。まず、ここに集まって頂いた方々に感謝の意を伝えたい。この国を救うには皆さんの力が必要なのである。


 周知の事実であるが、現在ルシタニア王国は厳しい状況に立たされている。国内では魔獣の大量発生により土地が荒廃し、国外では近隣諸国による軍事的挑発が続いている。

 

 我々只人は魔法を使用出来ないため、生身ではどうしても魔獣や魔法族に劣ってしまう。それが我が国を取り巻く苦境に繋がっていることは否めない。


 しかし、弱点ばかりに目を向けていてはならない。強みを伸ばすことこそが、今必要なのである。我々の強みは何か? それは、知識と技術であろう。太古の昔より、人類は火を武器として扱い、弓や剣を発明することで生存圏を得たのである。したがって、今を生きる我々も祖先に習わなければならない。


 今、この王立科学協会にて反撃の狼煙をあげる。知識の探究と技術革新の促進により、この国を強化しなければならない!


 只人が弱者として扱われる時代は、今日これを持って終焉する! 魔獣を駆逐し、侵略者から祖国を防衛しなければならない。愛する者、未来を生きる子供たちのために、我々が協力して、この重大な責務を果たさなければならないのである!



 こうして、王立科学協会が創設され、活動が始まったのである。秋山は早速、ある司令を下した。


「諸君、かくかくしかじか……」


 これにて、あるの開発が始まったのである。その正体は、いずれこの物語が進むにつれて判明するだろう。ぜひ楽しみにしておいてほしい。



 王立科学協会における業務が終わり、秋山は王宮の舎宅に帰宅した。そして、バルコニーにて、外の景色を眺め、物思いにふけっていたのである。



近代国家建設の道は新たなるステージへと進んだ。果たしてこの先にどのような試練が待っているのだろうか…。


 そんな考え事をしていると、後ろから声がかかってきた。


「御機嫌よう、秋山さん」


 声の主はエリスであった。


「なんだ、エリスか。君とは本当に良く出会うな」


「それは、あなた方の舎宅の斜め向かいの部屋で暮らしていますからね。知りませんでしたの?」


「ああ、初見だ」


 そんなに近くに暮らしていたのか。そりゃ頻繁に出会うわけだ。


「そんなことより、一体バルコニーで何をしているのですか?」


「あ、ああ。この国の将来について、考え事をしていたのだ」


「うふふっ、あなたは本当に面白い人ですね。聞きましたよ、最近を創設したらしいですわね」


「変なとは失礼だな。王立科学協会は、この国の将来を左右する重要な存在だ。必ず我々の力となる日が来るだろう」


「もちろん知ってます。少しからかっただけですわ」


 いやあ、困ったお姫様だ。ダブルベッドの件と言い、人をもてあそぶのが余程好きらしい。


 


 少しの間を沈黙が流れた。すると、エリスは急に真面目な顔になり、こう問うてきた。



「この国を救えますの?」


「ああ、問題ない。必ず何とかして見せる。科学技術が魔法や魔獣に負けることは絶対に無い、と私は信じている。」


「うふふっ、頼もしいですわ。あなた方の故郷は、明日生きるか死ぬかを心配せずに暮らすことが出来る、さぞ良い場所なのでしょうね。」



 この時、秋山は考えた。もうこの機会に、異世界転生してきたことを打ち明けた方が良いのでは、と。善は急げということで、すぐさま実行することにした。



「エリス、君に伝えたいことがある」



 この言葉を受け取った時、彼女はこう考えた。


 伝えたいこと……。ま、まさか! バルコニーに二人っきりというシチュエーションで伝えることって……。こ、こ、告白しかありませんわ!


「それって、重要なことですの?」


「ああ、重要だ」


 う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁ! やっぱりそうです、告白ですわ!! 私、まだ心の準備が出来てませんの。深呼吸、深呼吸……。


「すぅーーーはぁーーっ。すぅーーーはぁーーっ。」




 エリスの奴、深呼吸し始めたぞ。まあ、確かに異世界転生の事を伝えるのだ。心の準備をしてもらった方が良い。

 ……果たして今伝えて大丈夫なのだろうか。もし拒絶されたら、今までの功績は全て無に帰る。だが、いずれ伝えなければならないことだ。早いうちに打ち明けるのが良いだろう。


 この時、双方の心臓は爆発するかと思うぐらいに鼓動を速めていた。



 そして、覚悟を決めた秋山は口を開いた。




「エリス、伝えたいことと言うのは……」




 良いですわよ。心の準備は出来ましたわ!



 頼む、どうか異世界転生について受け入れてくれ…。




「……我々は遠い国から遭難してきたと言ったが、あれは嘘だ。今まで騙していて申し訳ない。本当は、神の力によって、異なる世界から転生してきたのだ」



 しばらくの沈黙の後、エリスが口を開いた。



「あ、えっ? ……て、転生? あ、転生ですの? あ、そうなのですね」


 はっはいぃぃ……? 告白じゃありませんでしたわ! こんなに心の準備をしたのに……。



 エリスの奴、反応がやけに薄いな。もしかして異世界転生って、そんなに重大なことでも無いのか…。



 双方は、尋常ならざる覚悟を持ってこのやり取りを実行したが、まさかの相手の勘違いにより、肩透かしに終わったのである。


「なんだエリス、やけに反応が薄いでは無いか」


「ま、まあ。魔法が存在する世界ですし……。神による異世界転生が起きても不思議ではありませんわ」


「なーんだ。無駄に緊張してしまったな」


「それは私のセリフですの!! もう…。どれだけ心の準備をしたものか……」


「なんだ?一体何を伝えられると思っていたのだ?」


      です!!!」


 そう彼女は言葉を投げて、バルコニーから去って行った。


「なんだ……? 一体、何を怒っているんだ?」



 果たして、秋山が彼女の気持ちを理解する日は来るのだろうか……。

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