第12話 初仕事 脚気の撲滅

 聖歴1250年3月29日、王から予算と人員の確保が出来たとの報告を受けた。予算3億デナリウス、人員20人を任されたのである。これをもって、「脚気撲滅かっけぼくめつ推進に関するタスクフォース」を立ち上げ、我々の初仕事がスタートしたのである。


 まず、貸し与えられた王宮の一室にメンバーを集め、以下のように宣誓の挨拶を行った。




 諸君、本日から共に仕事を行う秋山だ。これからよろしく頼む。


 まず、ご存じであると思うが、例の流行り病に対抗するために諸君らは召集された。この病は、重症化すると死へ至るというものでありながら、正体が判明せず、有効な治療法は発見されなかった。そして、多くの者が苦しみ、死に至ったのである。しかし、このような悪夢は、今、我々の手によって終止符を打つ!


 先日、私はこの病の正体に気が付いた。それは、我が故郷でも猛威を振るった『脚気』というものである。ルシタニア同様、長い間正体が判明せず、多くの民が苦しみ命を落とした。しかし、原因が究明され、適切な治療が施されたことにより、現在はほぼ撲滅が完了しているのである。


 今から、諸君らが行うことは、歴史的偉業である。長らくルシタニアの民を苦しめてきた病に終止符を打つのだ!この偉業を達成したい者は、私の指示に従ってほしい。我らと共に、病に怯えて暮らす生活を、歴史の彼方に追いやろうでは無いか!




 少々、仰々しい挨拶かもしれないが、部下の士気を向上させるのも指揮官の役目である。おかげで、チームの士気は上々、高パフォーマンスで仕事に挑むことが出来た。


「ではまず、ルシタニア王国全土における脚気の推定患者数を調査する!」


 各人員をルシタニア王国各地へ送り、脚気患者の標本調査を行った。その結果、なんと国民の5%、人口にして約25万人もの患者が存在することが判明したのである。


「まさかこれほどとは…。放っておけば国が崩壊するぞ」


 調査結果から、豚の必要数はひとまず約2500頭と導き出された。値段にして約1億2500万デナリウス、さてこの量をどこから購入するかだ。


「豚肉をどこで確保すれば良いか、諸君らの考えを聞きたい」


「はいっ!国家間関係や海上輸送の観点から考えまして、フォエニや西エギプトが宜しいかと」


 あるメンバーがそう言って、地図を広げた。


 フォエニや西エギプトは、ルシタニアと内海を挟んだ対岸に存在する。肥沃な土壌を持ち、優れた農畜産物の生産能力を保有するらしい。


「うむ、良いでは無いか!貴殿の意見を採用する」


 フォエニ、西エギプト両国に交渉担当者を派遣し、豚の輸入に関する商談が行われた。結果は、見事成功を納め、フォエニから1500頭、西エギプトから1000頭の輸入が決定したのである。両国の商人や財界、畜産関係者の間では、このルシタニアの行動が話題を呼んだ。


「おい、聞いたか?あのルシタニアの話」


「存じておる。なんでも莫大な量の豚を購入していったとか」


「そうだ。交渉の場に居た友人から聞いたのだが、なんでも急を要するという理由で、相場より10%も高い値段で買い漁っていったそうだ」


「ふむ、なるほど…。ルシタニア人は一体何を考えているのやら」


 そんなこんなで、第一弾の輸入は成功した。ここから、ルシタニア各地への輸送や配分、そのための輸送手段の確保等の難題が待っていたが、それをアテナが担当した。彼女の事務処理能力は凄まじいものであり、まさにAIの真髄ここにありといったところであった。


「アテナさん、凄いですね……」


「一人で全部出来るんじゃないですか?」


「うふふっ、そんなことありませんよ。今私がこうやって作業出来ているのも、皆さんが行った調査や交渉という土台があってこそですわ。本当に助かっています!」


「ははっ、アテナの言うとおりだ。人にはそれぞれの得意分野がある。語学が堪能な者、計算が得意な者、人をまとめる能力がある者等、他に挙げればキリがない。組織行動においては、それらの人々が歯車のように噛み合い、動き出すことによって、より大きな力を出していくのだよ」


 秋山の言う通り、このタスクフォースチームは各自がそれぞれの分野を活かし、最高のパフォーマンスを発揮した。

 後に、この活動は、ルシタニア王国における近代官僚制の始まりと言われるようになった。



 こうして、「脚気撲滅推進に関するタスクフォース」の活躍により、国の隅々まで豚肉が行き渡った。そして、1週間後には、大流行していた病がほぼ収束したのである。


 秋山らはこの活躍により、ルシタニア全土に名を轟かせた。民衆からは国家の英雄として讃えられ、王からも大いに賞賛された。



 王謁見の間にて



「秋山殿、アテナ殿、今回の功績誠に見事であった」


「恐れ入ります。これもひとえに陛下のご威光の賜物でございます」


「はっはっはっ、謙遜は良い。この実績は諸君らの努力の結晶である。堂々と誇って良いのだぞ」


「はいっ!有難き幸せでございます」


「して、今回の褒美についてであるが、如何せん功績が大きすぎて何を授ければ良いか、思い当たらんかった。であるから、諸君らの希望するモノを与えることにした。何が欲しいかね?」


 さすが、器量の広い偉大な王陛下である。秋山は少し考えて、以下のように答えた。


「では、というものを創設して頂けませんか?」


であるか。また新しい単語が出てきたの。一体それは何だね?」


 王は笑みを浮かべて、そう問うてきた。


「はい。科学というのは、新しい技術や法則を発見すること、と考えて頂ければ幸いです。したがって、科学の発展は、生活の豊かさや軍事力の強化に繋がり、ひいては国家に繁栄をもたらすことになります。この先、ルシタニア王国が生き残るためには、この力が何としても必要になると考えます」


「素晴らしいではないか!しかし、諸君らの為というより国のための褒美になるが良いのか?」


「私の最大の幸福は、国家の発展を見届けることです。したがって、何ら問題がありません」


「承知した!では、その王立科学院とやらの創設に早速取り掛かろうでは無いか」


 こうして、ルシタニアに初めて科学というモノが誕生するのである。秋山は王立科学協会の初代所長となり、国家の近代化を進めていく。


 


 

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