第9話 ルシタニア国王

 王都の入り口に着いた頃には、もう辺りが闇に包まれていた。目の前には、王都を取り囲む高さ10mほどの城壁が聳え立っており、その下に検問を待つ人々の列が出来ている。我々は列を横目に通り過ぎ、検問所に近づいた。


「エリス・ラ・ルシタニアですわ。今戻りましたの」


 彼女が検問所の兵士に伝えると、慌てて門を開いた。


「エリス様! ご無事で何よりです。さ、どうぞお通り下さい」


 門をくぐり城壁の内側へ入ると、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっており、城壁の外側とは打って変わり、華やかな世界が広がっていた。


 道端には商店が連なり、買い物客がせわしなく行き交っている。


 王都の中心部に進むにつれて賑わいが増す。あれらは酒場だろうか、大勢の人々が飲み食いを愉しんでいる。大通りの側面には、テーブルやイスが並べられ、店からあふれ出した人々がアルコール片手に談笑していた。


「活気があるな」


「最近は魔獣やモンスターの大量発生により、多くの冒険者の方々がルシタニアに滞在しています。その影響で王都の酒場は冒険者で溢れているのですわ」


 なるほど、魔獣特需による好景気と言うわけか。あまり良い状況では無いな。


 しばらく大通りを進むと、また城壁が見えてきた。この先に王宮があるらしい。


「着きましてよ」


 王城の門の前で馬車を降りる。シュバルツのメンバーとはここで一旦別れることになった。


「俺たちは、王都のギルドに行ってくる。また、酒でも飲みに行こうでは無いか!」


 リーダーのジョエルが語り掛けてきた。


「ああ。ぜひ行こう」


 我々は固く握手を交わした。そして、リーネとも別れの挨拶をした。


「あんた達は中々役に立つから、クエストに連れて行ってあげてもいいわよ!」


 彼女はいつも上から目線である。


「ははっ。ぜひよろしく頼むよ」


  シュバルツと別れ、我々はエリスと共に王宮の中へ入った。


「秋山さんとアテナさんはしばらく控室にてお待ちくださいまし」


 エリスはそう言って、先にちちおやの元へ向かった。私とアテナは二人控室にて時間を待った。


「ご主人様、緊張していらっしゃいますか?」


「まあ多少はな。しかし、高揚感といった方が正しいのかもしれない」


 事実、私は王との謁見が楽しみであった。これによって、我々は一定の政治的権力が付与され、近代国家建設の道が正式にスタートするのである。


 10分ほどして、ドアをノックする音が聞こえた。


「秋山真之様、アテナ様、お待たせしました。謁見の間までご案内いたします」


 王宮の家来が我々を先導して、謁見の間の前に着いた。その重厚な扉は王の権威を象徴しているようであった。そして、扉がゆっくりと開き、我々は前へ進む。中に入ると、左右には近衛兵が10人ばかり並んでいた。


「こちらですわ」


 声が聞こえてきた方に視線をやると、エリスが笑顔で手を振っていた。その横には、宝石で装飾された玉座がありルシタニア国王が座す。我々は足を進め、エリスの指示に従い跪くと、王が口を開いた。


「秋山真之殿、アテナ殿、此度は我が娘を救っていただき感謝を申し上げたい」


 王の声には、重みがあり威厳に満ちていた。さすが一国の長である。


「ありがたき御言葉です」


 王は笑みを浮かべ、横に控えていた従者から巻物を受け取り、それを読み上げた。


「先日のオスティア村におけるオーク討伐の功績により、汝ら、秋山真之とアテナを王国政治顧問に任ずる。また、その任務を行うに当たり、各自に月70万デナリウスの給与を支給する。聖歴1250年3月25日、ルシタニア王国国王エドワード・ラ・ルシタニア」


 読み終わると、私は立ち上がって王の元まで足を進めその巻物を受け取った。これにて、ルシタニア王国政治顧問の職を正式に任命されたのであった。


「本日は夜も深まったため、早めに終わるとしよう。そなたらも長旅疲れているであろう。明日から3日間の休息を与える。これにて英気を養うが良い」



 そして、エリスがを浮かべてこう言うのである。


「あなたたちには、王宮の中に舎宅を用意しましたわ」


 休息か、なんと有難いことだろう。しかし、エリスのあの笑みはなんだ……。


 無事に王との謁見も終わり、家来に我々の部屋まで案内された。


「こちらが、秋山一向様のお部屋でございます」


 第一印象は素晴らしい部屋であった。広さは約20帖ほど、豪華な装飾や高級そうな家具など、まさに欧州の高級ホテルの様であった。いやはや、なんと有難いことだろう。


 しかし、一通り目を通して、おかしい部分を発見した。


「これは……」


 私の目の前には、なんとダブルベッドが横たわっていた。いや、おかしい。他にもベッドがあるはずだと、もう一度部屋を見回してみたが、そのダブルベッドしか部屋に無かった。エリスの奴…こういう事だったのか。


 困惑する秋山であったが、それ以上に衝撃を受けたのはアテナの方であった。


「ダ、ダ、ダ、ダブルベッドぉーー!!」


 異世界に来てから、ご主人様とサバイバルしたり宿に泊まったことはありますが、寝る時は離れていました。さすがに、アンドロイドでも男女の問題がありますので。しかし、この部屋にはダブルベッドしかありません。ご、ご主人様と同じベッドで寝るなんた……。彼女は顔を真っ赤にした。


 王がせっかく用意してくれた部屋をチェンジするなんて言う事は出来ず、仕方なくこの部屋で寝ることにした。


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その夜……


「ご、ご主人様。狭くありませんか?」


「ああ、大丈夫だ」


 私の背中の裏にアテナが居る。彼女の体温が背中から伝わってくる。彼女は果たしてただのAI搭載型のアンドロイドなのだろうか……。


 秋山はアテナの事をアンドロイドでは無く、人間として意識しつつあった。


 そして、アテナの方もこう思っていた。


 これから毎日このベッドで寝るのですか……。ご主人様の心臓の鼓動さえ聞こえてきそうなほど近いです。この胸の高鳴りは何なのでしょうか。異世界に来てから、私ずっと変です。


 もしかして、これが恋と言うものでしょうか。

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