第8話 いざ王都へ

 オーク討伐のあくる日、我々はシュバルツと共に、王都へ出発することになった。


 まだ寒さの残る初春の朝、アテナの呼びかけによって目が覚めた。馬車の出発が朝早いため、私は慣れない早起きを強要された。


 「ご主人様。いつまで寝てるんですか。もう馬車が来ますよ!」


 異世界人というのは、早起きらしい。もう、エリスや護衛達は外に出て準備をしている。私は重い瞼を開け、寝ぼけた頭で着替えを始めた。

 

 下に降りると、もう馬車が到着しており、エリスとリーネは先に馬車の中に入っていた。他のシュバルツメンバーは徒歩で移動するが、リーネは完全に傷が癒えていないため、我々と共に馬車に乗ることになったらしい。


 馬車に乗るなり、早速リーネが口を開いた。


「あらあら、いい年して寝坊?まるで赤ん坊ね。大人ならさっさと起きなさい!」


「最適な睡眠時間というものは、個々人の体質や生活習慣によって大きく異なるのだよ。故に、大人だからという理由で早起きを強制するのは愚行と思わないか?」


「なんですって!」


 朝っぱらから議論(口喧嘩)が白熱しそうになったが、エリスが手を叩いて制止する。


「はいはいっ、お静かに。朝から仲の宜しいことで」


「別に仲良くないから!」


 こうして、賑やかな王都への道のりが始まったのである。



 まず、エリスがオーク討伐の話題を始めた。


「秋山さん。昨日の活躍は素晴らしかったとのことで。なんでもオーク4体を倒したそうですわね?」


「ああ。シュバルツの協力もあったおかげで、比較的楽に事を運ぶことができた」


「そういえば、あんた昨日のアレは何? 実は魔法使えるんでしょう」


 リーネが口を挟んできた。昨日のアレとは、おそらくモロトフカクテルを指しているのだろう。


「あれか? あれはモロトフカクテルというものだ。」


「もろとふかくてる? 何それ」


 説明が面倒だったため、アテナに委ねた。


「それは、火炎瓶とも呼ばれ、主にガラス製の瓶にガソリン・灯油などの可燃性の液体を充填した、簡易的な焼夷弾の一種です。冬戦争における故事からモロトフカクテルとも呼ばれます」


「ますます分からなくなったわ。でも、要するに魔法では無いのね。」


「その通り。モロトフカクテルとはの一種なのさ。」


 私が解説を付け加えると、エリスが質問してきた。


「あなたたち、その知識どこから習ったのですか? 少なくともルシタニア王国では全く聞いたことがありませんわ。」


 まだこの段階で、異世界から転生してきたことを伝えるのは早いだろう。ここは都合よく取り繕っておくとしようか。


「それは、我々の故郷、遥か東方の国における知識だ」


「遥か東方の国?なんという名前ですの?」


「ジパングだ」


「ジパング…。聞いたことがありませんわね。もしかして、より向こうに存在するのですか?」


「最果ての山脈? なんだそれ」


「それはローラシアの遥か東方、大森林のさらに奥に存在する大山脈ですわ」

 

 我々はそもそもこの世界に関する知識が無い。故に、最果ての山脈や大森林など知る由もないのだ。

 

「いや、知らないな。我々は、海を漂流してこの地に来た。だから、この世界に関する知識は全く持ち合わせていないのだ。」


「なるほど。そういう事でしたの」


「ということで、この世界の地理や情勢に関する情報を教えてくれないか?」


「分かりましたわ。お安い御用でしてよ」


 エリスはまず地図を取り出し、膝の上に広げて見せてくれた。



「ふむ、なるほど」


 エリスは要所要所を説明してくれた。まず、先ほど出た最果ての山脈についてである。


 最果ての山脈、それは世界の端に存在する巨大な山脈である。現在に至るまで幾多の人間が踏破しようと挑戦したが、未だその先に到達した者は存在しない。その神秘性や神聖さから、童話や英雄譚において度々登場する。果たして、その向こうには何が存在するのか、長年議論の対象となっている。


 次に最果ての山脈の麓に存在する大森林について説明してくれた。


 そこは巨大な木々が太陽の光を遮り、昼間でも鬱蒼と暗さに包まれている。領域は実に広大で、ローラシアの約半分を占めると言う。特筆すべきはモンスターの巣窟であり、世界で最も危険な領域と称されている。また、ドワーフやエルフ、リザードマン、獣人など亜人の国も存在するらしい。



 次に、ローラシアの情勢について語ってくれた。


 まず、この世界において魔法を使用出来る人類と出来ない人類が存在する。前者は魔法族まほうぞく、後者は只人ただびとと呼ばれている。現在は、魔法族国家がローラシアのほとんどを支配しており、只人の治める国は今やルシタニア王国と自由都市連合だけである。

 

 これを踏まえて、国際・政治情勢を説明する。



 ローラシアを語る上でまず外せない国は、神聖しんせい魔導帝国まどうていこくである。この国は、住民のほとんどを魔法族が占めローラシアでもっとも強力な軍事力を保有する。特筆すべきは、魔法族優生思想が蔓延しており、只人やデミヒューマンに対する弾圧が行われていることである。



 次に、大陸の西方に浮かぶ島国である連合王国である。住民は魔法族と只人が半々であり、異世界では珍しいことに双方が共存している。そして、強力な海軍を保有しており、大陸西方の海を支配しているとのことである。



 ルテニアはわずか50年程前に建国された比較的新しい国家である。住民は魔法族が1割、只人が9割である。少数の魔法族が支配層となり、圧倒的多数の只人は奴隷的扱いを受けている。近年は西方への領土拡張政策を進めているとのことだ。



 エトルリアは肥沃な土地を持つ豊かな国家である。住民は魔法族が3割、只人が7割である。この国も西方への領土拡大を進めており、ルシタニア王国と衝突を繰り返している。



 最後にルシタニア王国である。住民はほとんどが只人である。かつては、より広大な領土を保有していたが、魔法族国家との争いに敗れ徐々に衰退していった。現在は、エトルリアとの衝突が激しさを増している。



 エリスの説明が終わり、私は気になることを質問した。


「やはり、只人国家より魔法族国家の方が戦争に強いのか?」


「ええ、圧倒的に強いですわ」

 

 ほう……。やはり対策が必要みたいだ。





「もうじき王都に着きますわ」



 気が付けばもう日が傾いていた。赤い夕焼けの光が馬車の中まで入る。窓から外を眺めると、遠くの方に壮麗な都市の姿が目に映った。





-----------------------------------------------


近況ノートにローラシアの地図載せておきました。

興味ある人はぜひ見てね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る