第5話 エリス
辺りはもう薄暗くなっていた。村の入り口に着くと、門番の男が駆け寄って来る。
「エ、エリス様でございますか」
「ええ、そうですわ」
「たっ大変だ! エリス様が戻って来られたぞ!」
呼びかけにより、村の奥から数人の男たちが駆けつけた。この者たちは、ラテン系の顔立ちであり屈強な体つきをしている。また、武装から推測するに並の人間では無いことはたしかである。
どうやら、この男たちはエリスの護衛らしい。
「ところで、エリス様。隣にいらっしゃる方々はどなたでしょうか?」
リーダーと思われる男が我々を見て口を開いた。
「この方々は命の恩人ですわ」
「おおっ。これは誠にありがとうございました」
男は深く頭を下げた。
そして、オーク襲撃の詳細や私たちの置かれた状況について話を行った。
一通り話が終わると、エリスが問いかけてくる。
「ところであなたたち、今日泊まる宿は無いのかしら?」
「うむ。そもそもこの国の貨幣すらもっていないのだ」
「あら、そうだったのですね。では、私たちの宿に泊まっていけば宜しいわ」
「本当か!恩に着る」
エリスらはこの村の宿を一軒ごと確保しているらしく、我々には予備の部屋を貸してくれた。しかも、命の恩人だからということで無料である。
去り際にエリスは、今夜改めて話がしたいから、我々の部屋に訪れたいと伝えてきた。それまでは自由時間だ。アテナとこの世界の状況分析を行うことにした。
「この世界の文明レベルは中世といったところか」
「私もそう考えます」
彼女が言うには、護衛達が持っていた剣の形状から推測して、この世界は11-12世紀頃の文明レベルではないかとのことらしい。
ふーん……11-12世紀か。中国では宋王朝が栄華を極め、日本では武士の台頭が始まる。ヨーロッパにおいては、ローマ教皇の持つ権力が絶頂期となり十字軍や異端審問など色々問題を起こしていた。まさに中世真っ只中である。
「やはり、現時点では情報が少ないです。大都市に行くことは必須かと」
確かに、元の世界とは技術体系が異なっているかもしれない。特に魔法の存在が気がかりだ。どのような代物か早急に情報を仕入れる必要がある。
「そうだな。一回、エリスに頼んでみようか」
こんな会話をしていると、ドアをノックする音がした。
「秋山さん、アテナさん、いらっしゃいますか。エリスですわよ」
「入ってくれ」
ドアが開きエリスが部屋に入って来た。服装は、古代ギリシア人が着ているような真っ白い布を纏っている。
そして、我々の対面に着席した。
「まず初めに、改めて本日の御礼をしたいと思います」
彼女は持ってきた木箱を机の上に置き蓋を開ける。その中には、びっしり金属で出来た貨幣らしきモノが入っていた。
「この国の通貨ですわ。御礼に差し上げます。2人が1カ月暮らしていくには十分な量ですわ」
「本当か! 非常にありがたい」
遠慮せずに頂いておこう。これを軍資金にして覇権への一歩を踏み出そうではないか……。
と、秋山が妄想をしているところエリスが口を開いた。
「ここからが本題なのですわ」
本日の礼が本題ではないのか……。では一体何が目的なのだ。
「まず、私の本名から伝えましょう。『エリス・ラ・ルシタニア』ですわ」
エリス・ラ・ルシタニア……。
ラ・ルシタニア……。
まさか、ルシタニアって!
秋山は顔色を変えた。
「気づかれたようですね。私はルシタニア王国の王女ですわ」
「こ、これは今までご無礼を」
咄嗟に深々と頭を下げていた。
「もうやめてくださいまし。全く気にしておりませんわ。今まで通りの御言葉遣いで宜しいですわよ」
「す、済まない。突然のことで取り乱してしまった」
まさかのエリスがルシタニア王国の王女だったとは……。身分が高いとは感じていたが、まさか王族か。どおりで、これほどの護衛を連れているわけだ。
「話を戻しますわね。私はあなた方に頼みがあって参りましたの」
エリスの言う頼みとはこうである。
まず、村周辺におけるオーク討伐への参加だ。ぜひモロトフカクテルの力を使って、村の人たちを助けてほしいとのことである。
そして、もう一つ。これが最も重要な提案である。それは、ルシタニア王国の政治顧問になってくれないかとのことである。ぜひ我々の知識や経験を活かして、王国を助けて欲しいとのことだ。
なんと素晴らしいことだろう! 国家の中枢部に食い込むチャンスだ。ここから近代化の推進を……。
「ぜひその提案、両方とも受けて差し上げよう」
「本当ですの!? 感謝いたしますわ。」
「ルシタニア王国をこの世界で最も豊かに、そして強力になるよう全力を尽くしましょう」
エリスは満面の笑みを浮かべて喜んだ。
ついに、近代国家建設への道が始まった。果たして異世界にはどのような脅威があるのだろうか。しかし、恐れることは無い。私とアテナが組めば、どんな脅威も打ち破ることが出来るだろう。
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