第3話 異世界の少女

  少女視点


 あぁどうしましょう、私は深い森で迷子になってしまいましたわ。ここで待っておけば助けが来るのでしょうか…。


 悲痛に暮れていると、森の奥から足音が聞こえてきた。


 まさか、モンスター!? いや違う、人間みたいですわ。服装からして、この国の者ではありませんね…。


 近づいてくる者に注意していると、向こうから声をかけてきた。


「おーい。大丈夫か?」


 どうやら悪い人ではなさそうですね。


「大丈夫じゃありませんの。迷子になってしまったのですわ」


「なるほど、実は我々もこの辺り地理に疎く迷ってしまったのだ」


 もう相手の顔をはっきりと認識できる距離になりましたわ。男性の方は黒い髪と黒い目をしています。そして、背も高く、体格も良いですわ。

  

 女性の方は……森の妖精ですか?こんなに美しいお方は今まで見たことがありません。黄金のように美しい金髪と透き通るような白い肌、そしてサファイアのような青い瞳が印象的です。女性の私でさえ美しさに見惚れてしまいますわ。


 男性に続き、例の金髪の美女は答えた。


 「そうなのです。人里まで下りたいのですが、なかなか森が深くて困っているのです」


 「分かりましたわ。一緒にこの森から抜け出しましょう。」


 そういうわけで、異世界の少女は秋山一向と共に森から脱出することになった。



 秋山視点


「まずは、名前の紹介といこうか。私は秋山真之だ。そして彼女がアテナである」


「秋山真之さん、アテナさんよろしくお願いしますわ。私の名はエリスです」


 エリスの服装からは、高貴な身分であることが推測される。果たしてどこかの貴族なのだろうか。


「よろしくエリス。まず初めに、森の出口の方向など分かるかね」


「あの…それが…」


 彼女は申し訳なさそうに口を開いた。なんでも、全く方向が分からないようだ。この森にはティーパーティーのため来たが、オークの襲撃に遭い命からがら逃げてきたらしい。


 なるほど、オークか。さすが異世界であるな。早速、情報収集をしよう。


「そのオークについて、情報を教えてくれないか?」


「ええ、良いですわ。身長は人間の2倍ほどで、力がとても強く皮膚は分厚いのが特徴です。したがって、並大抵の武器では敵いませんわ」


 なるほど、現状では、真っ向から戦う事は無理そうだ。オークに遭遇しない事を祈って森から抜け出すしかない。


 ということで、エリスが逃げてきたときに残した足跡などの痕跡を辿って、森を抜けることにした。

 

「アテナ、エリスの足跡の痕跡が分かるかな」


 アテナはAIであるため、高度な情報処理技術を持っている。並みの人間には分からない痕跡など容易く発見することが可能なのである。


「はい! 問題ありません」

 

「よし、では行こう」



 この時、エリスは思った。



 アテナさんって、可愛い上に、こんな器用なことも出来るんですね。それに、秋山さんも何か異様なオーラを放っています。この人たちは、只者ではありませんわ。



 アテナを頼りに、痕跡を追い10分程度歩くと、開けた場所に出た。遠くの方にティーパーティーの行われていた場所が見える。


 「アテナ。周りに生体反応は?」


 「はい。半径150m以内には存在しません」


 「進もう」


 このとき、エリスがアテナに声をかけた。


「アテナさんって凄いですわ!足跡を追ったり、周囲の警戒をしたり。こういう術はどこで習ったんですか?」


 アテナはどう返答するか少し迷った。


 ご主人様からは異国からの旅人という設定を守るよう言われています。ここは、何か体の良いウソを言わなければなりませんね。


「それは、私の祖父から教わりました。猟師をやっていたため、幼い頃から色々と学ばせていただきました。その能力を秋山さんに買われて、今は旅の御供をしているのです」


「なるほど! そういう経験があったんですね。ところで…」


 エリスはそう言い、アテナの近くに寄ってきた。そして、小声でこう話しかけた。


「秋山さんとはどういう関係なんですか?」


「ど、どういう関係とは!? ただの旅の御供ですよ」


「いえ。そういうわけでは無くて、なんじゃないですか?」


「こっ、こ、恋人!」


 私はご主人様に買われたAI搭載型のアンドロイドですから、ただの話し相手です。そもそも、AIだから感情とか分かりません。


「ち、違います!」


「では、でいらっしゃるのですか?」


 私がご主人様を好いていると! いえいえ、私はあくまでアンドロイド、人間のように愛し合う事は出来ません。


 しかし、この時、彼女に心臓は無いが、胸の鼓動が激しくなる感覚を体験し、体の奥から熱が火照ってきた。神に身体を改良されたため、彼女の肉体はもうアンドロイドの範疇を超え、人間と言った方がふさわしい状態となっていた。


「片思いでもありません!!」


「うふふっ。でもお顔は真っ赤になってますわよ」


「み、見ないでください!」


 アテナは手で顔を覆い隠した。


「秋山さんに気があるなら、早くモノにした方が良いですわよ」


「え……?」


「だって、お顔は美形ですし、背も高くて体格も良いです。何より、知性とオーラがあります。こんな男性、滅多に居ないですわよ。世の中の女性と言う女性が放っておくわけがありませんわ」


 エリスのその言葉に、アテナは焦燥感を覚えた。



 ほどなくして、ティーパーティーが行われていた場所に着いた。物は散乱しており、人は残っていない。おそらく、皆散り散りに逃げたのだろう。


「酷いですわね」


 ところどころに血も滴り落ちていた。



 この場所を跡地みて、秋山は閃いた。


「エリス。この壺のような陶器を貰っても宜しいかな」


「はい。別に構いませんよ。しかし、何に使うのですか?」


「こいつで(火炎瓶)を作るのさ」

 

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