演劇項目【森の王様と月光の女王・続編】

※先に最終章・人への旅立ち#23 終わりまで読んでおくことをお勧めします。





 輝夜国での結婚式が終わり、日が経ちました。ロー王子は王様になり、毎日忙しく皆をまとめています。

女王はドラゴン…違う、従者と片時も離れることなく愛を語り合っています。世間ではこれって不倫っていうのでしょうか。

女王の台詞「何を言ってるの?まあ…あなたにはまだ『愛』は難しいわね。私達をこれからよく見ていてね、そうすれば解るわ。」

この王国はずいぶんと人が離れてしまいいつもしーんとしています。

でも、王様が新しい私達の精霊がこれからの道を教えてくれると話していました。

新しく王国へ来た踊り子‥名前は頭の文字を取ってアイにしよう。

アイは昔、闇市で奴隷が売られているのを見てから闇市が恐くて行きたくなかったそうですが、今は亡くなった私達の前女王様の為にも、踊りを披露したいと言ってくれます。

この劇が闇市で上演されるとき、彼女の華麗な踊りを見れるのが私は楽しみで仕方ありません。

 広い机の中央にぎゅっと集まって今日の晩餐が始まります。女王が私達の為に貴重な缶詰を使ったパンケーキを作ってくれました。美味しすぎて、私達は泣きながら食べます。

その夜は夢を見ました。

 私はお化けになって、館をぬけ出しました。

この国の前の女王が愛したこの森…空気をいっぱい吸って、あの人を感じる。

もうちょっと先へ進むと、闇の中でもぼうっと光ってる虫、キツネ、他にも数え切れないほどいる…。

「よかったら‥森のみんなも、私の劇見にきてね…」

女王風にくるっと回って、森を去った…まだ足がぶるぶるするよ…


館に戻って、闇の中の台所にしのび込みます。私は知ってた…みんなが…特に狼さんと小悪魔さんが夜中にお菓子をつまみ食いしてたこと…もう二人はいないから、次は私の番!

 私は床に座り込んだりなんかしないの…ちゃんとお湯を沸かして‥紅茶を淹れて‥二人が隠してたお菓子をお皿にきれいに並べて‥一人お茶会よ!

本当は、苦手だったみんなでのお茶会…前の女王が隣で話していてくれたら楽しかったけど‥あの人はいつも他の子のところへ行っちゃうから…

哀しい気持ちになってた時、何かの気配を感じて、窓の外が光った気がしました。

首をひねって探してみたけど、何も無い‥もしかしてあの人が逢いに来てくれたのかな!

ウィリ、違う、前の女王はきっと妖精になってずっとこの館で私達を見守ってくれてるんだね‥私には、解るの!

お菓子を分けにいこう…作り置きしてた私特製のジャムの瓶も持って‥

「私のお、月様どこに、いるの?隠れてしまわ~ないで‥」

階段をのぼっていく、そうだ、新しい女王様にもこれ、食べてもらおう‥

トントン、としてから、返事がない‥女王様の部屋のノブを回すと、開きました。

「女王様…クッキーもジャムも、持って、きたよ‥起きて…」

声をかけても動かないから、ランプを点けた…シーツを少しはだけさせて眠ってる、女王様‥前の女王様には及ばないけど、この顏の傷さえなければ、すごく綺麗な人だったな…

肩を掴んで揺すると、こっちに体が向いた、あれ?…薄目を開けて、苦しそうに口をゆがめて、私を見てる…首に、小さな穴が開いて、血が流れてる…そういえば、つかんだ肩、冷たくて、固い…

「虫に、刺された、ん、だね‥これ、食べて、気分を変え、て眠るといいよ‥」

まだクッキーは残ってる…次は、隣の部屋の踊り子に分けてあげよう‥

部屋の前へ行ったら、うっすらドアが開いてた‥ベッドに近づいてみたら、いなかった?

どこへいったんだろう?あ…‥踊り子は窓によりかかっていました。

「何し、てるの‥」

ランプを点けて近づいてみたら、髪も服もぼさぼさで、おでこが腫れて血が滲んでて、やっぱり首から血が…目は見開いてて、どこを見てるのか分からない‥

「…踊ってて、ベッドから落ちたの?‥かぜ、ひくよ…」

シーツを引っ張って、頭からかぶせてあげた…女王様、私、こんなに優しくなれたよ…‥見てくれてる?

 次は、従者のところへ…やっぱり鍵は開いてる、ランプを点けて………

これは何?…‥従者は、裸でベッドに手足を広げてて…股の上にはドロドロのハンカチがかぶせられてて…目をつむって、幸せそうに微笑んでる…首から流れた血は、枕元に散らばった女王からの手紙の上に落ちてる‥

「ずっと、秘密、の恋だった、んだね…私には、理解出来ない、けど‥‥」

幸せな人の邪魔をしないように、部屋を出て‥最後は…

「王様…起きてる?」

ふわっとランプの灯りがとびこんできた…この部屋は点いてる‥あ、机に座ってる…いっくつも本を積み上げてて、勉強してるのかな…

近づいたら‥机に伏せて眠ってた‥顔は見えないけど、髪のあいだから覗く首すじは赤く光ってる…

「クッキー‥焼いたの。また食べてくれる、よね。勉、強頑張って…」

本の上に何枚かクッキーを置いて、部屋を出ました。

最後の数枚は…目の前にある、前の女王のなつかしい香りがする部屋に……

誰かが寝ていました。足音を立てないように、少しづつ近付きます。

「…シルバ…」

ここで役柄を決めるなら、彼は幽霊である前女王を護る騎士‥

きっと見えない女王と一緒に、シーツにくるまり、さなぎみたいに眠ってる。そっと顔を覗くと、瞼がぱんぱんに腫れてる気がする…。

「私の女王と、その騎士に‥祈りと捧げ物、を…」

騎士の枕元にクッキーを全部置いて、部屋を出ます…‥

なんとなく足音を消して‥自分の部屋へ向かうのはワクワクするんだ…

急に、私の背中から光が降り注いできました。驚いている間に、細長い影が縞模様みたいに過る…振り返ると、まばゆい…月の光なの?窓から差し込んでいる…その中をゆっくりと横切りながら…騎士はやがて私を見た。

「女王様と…眠ってたの?」

騎士はゆっくりと瞬きをした。

「彼女の魂は安らげるから。」

さっきから小さく甲高い音がする…こんなに私は落ち着いてるのに、耳鳴りがするの…

「…‥何をしてるんだ?」

「月の光、が気持ち、いいね…ウィリアン様もたまに、こうやって一人で廊下で踊ってたの、知ってる…?」

月の光がどんどん強くなって、周りが白くなっていく中、騎士は手に持っていた弓矢を引く。

変わった形の矢の先が、私の視線と合う…

「知らなかった…。」

首、に痛みがはしって、身、体に力が、入らなく、なって…‥書か、なきゃ‥台本に、今の、続きを、書く‥

光、身体でさえぎ、って‥劇、書く‥何‥今、何が‥書かなく、ちゃ‥‥影‥ウィリアン様?う、ん‥私、‥最、後まで、,


「何を…書いてたんだ?」

うずくまったままもう動かないクロデアの手から紙を奪いシルバが目を通す。

「………台本‥か。字もろくに読めなかったのに、成長したんだな…」

うっすらと浮かんだように見えた涙は、「どうしたのですか?」と後ろから掛けられた声と同時に目の中へ戻る。

振り返る前に、その紙の最後にえんぴつを奔らせシルバは書き足した。


劇は続いていく。どんなに姿形を変えても。僕が続けさせていく。



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