第4話

ウサによる特訓が始まった。

日が暮れるまで体の強化を行う。しかし、特殊な訓練をしているわけでもない。

ひたすらに高台の周囲を走り回る、そしてウェイト代わりに岩を使用して体中の筋肉を鍛える。岩の重さがどんどんと増えてきているが、これはこの世界の普通なのか?とウサに聞いてみると、「これぐらいでは一日も生き残れないよ」といった返事が帰って来る。

でもなざっとこの岩の大きさ、大体500キロだぞ。この世界はどれほど驚異なんだよと思う。


夜になると魔法の勉強だ。

そう、魔法だ。ウサから俺も魔法を使えると聞いた時には、わくわくが止まらなかった。ただ、俺の魔力量は意外と多いようで、下手に操作し暴走すると体が耐えられなくなり木っ端みじんに爆発すると注意され、今は徐々に威力を上げているところだ。以前ではゴルフボールの大きさのエレクトロンボールも今は直径5メートルほどの大きさでもコントロールできる。なぜ電撃の塊だって?それは制御が最も困難なエレメントなのでこれを操作できれば他のエレメントも操作できるといった内容だった。

この鍛錬もちょっと過激すぎではと聞いてみると、ウサは不気味な笑顔を顔に張り付け「君のレベルの魔力制御はどの生物でもできるよ。少しでも魔力操作にたけている奴らは100メートル以上のエレクトロンボールを制御できるよ?」

ウサはそこでとどまらず、自分の角を使って直径50メートルのエレクトロンボールを生み出し、俺の頭上に浮かばせる。


もう思い知ったね、俺がどれだけ未熟だったのか。


エレクトロンボールも何とか直径90メートルほどのサイズを維持できるようになり

まともな魔力を制御できるようになったと思ったら、次の段階はその制御された魔力に形をつける、そして自由自在に操るといったものだった。でかいエレクトロンボールを100個ほどの個体に分裂させ、その100個の個体を自由に操るという、くそのように難しい訓練。


ウサに途中で弱音を吐いたら、200個の個体をいとも簡単にコントロールしてみせた。

うん、俺の努力不足でした。


ウサに指導されながら月日は流れ、無事に一年間の修行を終えた。


なぜ一年たったのがわかるかといえば、この世界は毎月の最終日に日食が起こる。初めの月は注意していないとわからないほどの日食なのだが日食の時間と暗さが徐々に増し、年の最後に当たる10月には一日が夜のように真っ暗だ。


とにかく、ウサがこの程度なら一人でも生き延びれるだろうと太鼓判を押すことができる境地に達した。これでこの周辺の魔物たちと戦っても引けを取らないぐらいになったようだ。


「君もだいぶ強くなった、あとはここから離れて女神さまの願いをかなえてくれよ」


「うーん、まあできることはやるけどな、女神さまの願いがあまりにも漠然過ぎて、どうしたらいいことやら」


ウサがちょっと間を置いたのち、「君がやりたいことをしたらいいんだよ」と言われ、なんとなく腑に落ちた。


そうだよな、俺ができることを俺の考えでやったらいいんだ。考えすぎも良くないしな。



その夜、女神様が俺の夢に現れた。


「ベム、この一年間の間、よく頑張りましたね。ついにここを離れて外の世界を見る時が来ました」


俺はまたの花一面の地に横たわっていた。その隣には、言葉では表現できないほどの美しさを持つ女神さまが俺の頭をなでてくれている。



「あ、ありがとうございます、女神さま。私にはこれしか能がないので」


頭をなでられているのが恥ずかしくなり、女神様の顔を直視できなくて目を閉じた。

沈黙が続き、時間がゆっくりと流れていく。

ああ、本当に魂が浄化されていくようだ。

いくらの時間がたったのだろう?まったくわからない。

もう、このまま女神様と一緒にここで永遠に過ごせないだろうか...


...と思ったがやはりだめだった。


「ベム、この世界のこと、お願いしますね」


そうかー、やはりここから離れなければいけないのか。まあ、女神様に頼まれた件もあるしな。


「承知しました。できる限り女神さまの願いをかなえようと思います」


「ありがとう、期待しているわね」


うわー!! 女神様の期待に満ちた眼差し、まぶしすぎて直視したら俺の心臓が持たない!


「ふふ、可愛いわね」


また心を読まれた!恥ずかしさで死にたい!


「ごめんなさいね、でも私も貴方にそう思われてうれしいわ」


女神さまの愛なのか?そうなのか?

俺は今一生分の幸せを使いつくしてしまったかもしれない。

ヤバい、恥ずかしくて死にそう。


会話を変えないと。そうだ、いろいろ聞きたいことがあったんだ。


「あの、この世界の情報をいただけますか?そして、なぜ初めの場所がここだったのですか?」


そう、ここはどこだ?そしてどこへ行けばいいのだ?ウサに聞いたが、彼の世界全ては、あの高台だけだ。


「そうね、簡単に説明すると、この大陸はほぼ楕円形のような形をしているわ。貴方がいる湖は、この大陸の中心部なの。そして、なぜここがあなたの始まりの場と聞かれると、ここが最も安全だったからよ」


女神さまが手を前にかざすと、大陸の立体イメージ図が現れた。この高台は樹海のど真ん中に位置しているようで、よく見るとどの方角に行っても100キロメートルほどの樹海を突き抜けないと境界までたどり着けないようだ。


「この湖はこの世界の魔素の源なの。湖の水がこの世界中に張り巡らせてある地下水脈に流れ込み、この世界の魔素を補給しているのよ」


その後、女神さまが少し困ったような笑顔で足し加える。

「この周辺の魔物たちは何百万年かけてこの湖からあふれ出ている魔素に当てられて世界最強になったのよ。ウサもその自覚がないので、あなたをそのレベルまで上げてしまったのね」


ああ、道理でウサたちがめちゃくちゃ強いのか納得したわ。え?ちょい待て、それって俺もまさか…


「そうね、あなたもいい加減に世界最強のレベルに達しているから、身体能力でも魔法でも使用するときには気を付けてね。でもまさか貴方がここまで強くなるとは思ってはいなかったわ。ウサもあなたを鍛えれば鍛えるほど上達するから、面白くて最大限まであなたの才能を引き上げてしまったようね」


え?まじで?ちょっと待てそれやばいのでは?


「ふふ、戦いには本当に手加減してね?」と女神さまに念を押された。


「は、はい、気を付けます」としか答えられんかったよ。


「名残惜しいけど、私もそろそろ神界へ戻らなければなりません」


女神様が真剣な表情で俺の手を握り、最後に言い残した言葉は、


「ベム、。貴方ならきっとこの世界を良い方向へ導いてくれる、お願いね」


























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