第3話

「暑い…」

俺はなぜか暑苦しさを感じ、目を覚ました。

体が自由に動かない。腹部から下に何か柔らかいものが乗っかている?

ぼやけた目をこすりながらよく見るとまさか、あの角うさぎとたれ耳リスが俺の周りにくるまって寝ている。あるいは俺の腹か足の上で寝ていた。

おい、こいつら本能とか危機管理とか大丈夫なのか?湖の周りに目を向けると、案の定、あちらこちらにもふもふの山がある。要するにこいつらは夜になると寒いのでそのために一か所に集まって寝るのか??

いやな、暖かくて俺も感謝しかないが肉食動物でもいたらここは肉を食べ放題のビュッフェだろ。

それに俺が起きてもぞもぞと動き始めているのに、こいつらまだ寝ているよ。暢気なものだ。

「ありがとな」俺の横に寝ているウサギの背中をポンポンと軽くたたいて、一応感謝は伝えておこうとした。

するとそいつが目を開け、俺のことをじっと見ている。なぜか無邪気な子供になつかれたような、くすぐったい感じだった。いや、昨日食おうとしたがとどまった俺をほめてやりたい。可愛すぎるよこいつら。

湖の上の空を見ると、そろそろ夜明けのようだ。また寝っ転がってこいつらが起きるのを待つ。

心が、軽い。こんなにぐっすり安らかに眠れたのも、女神さまの計らいだと思った。俺は顔を空に向け、目を閉じ感謝の思いを彼女に送った。


徐々に明るくなりつつ、薄く紫色がかった空に雲一つない朝が訪れる。モフモフたちも起きたなりに散らばっていく。

俺も一応腹が減ってきたので、女神さまからもらった残りのパンを袋から取り出そうと中をのぞくと、食べかけのパンのほかに、新しいパンがもう一個入っていた。水筒をチェックすると、飲水が補充されていた。え?この袋、パンと水を毎日くれるのか?

ありがたいことだ。試しにモフたちがパンを食べるかどうか少しちぎってやると、意外とおいしそうに食べていた。


さて、これからどうするか。しばらくの間はこの高台で過ごす感じだな。とてもではないが1000メートルほどの崖を降りるなんて不可能だし。

食べ物には困らないだろうが、木々の果実とパンだけでは物足りない、それにプロテイン不足が目に見えている。


今、できることをするしかないか。

そう思い、俺は木の枝を折って原始的なテントを立てたり、トイレの場所を作ったり。それを終えると今度は筋トレ、それに一般的な体力づくりだ。俺の体格がちょっと弱弱しい感じで少しは筋肉をつけないと思って始めた。頭の中に空手とテコンドーの知識もあったので、両方とも練習するように決めた。

毎日がゆっくりと過ぎていく。できるだけ規則正しい生活を送りながら、体作りと鍛錬を欠かさなかった。

そして、このモフたちの世話も少しするようになった。まあ、毎日パンを分けたり、木の実をとってやるぐらいのものだが。


十日間ほど経過した後、明らかにおかしい。

何がって、人間をやめているほどに身体能力がめちゃくちゃ上がっている。

初日は普通に人並みだったのが、今は300キロぐらいの岩を持ち上げられる。それも楽々と。駆け足のスピードも異常だ。初日に歩いて3時間かかった高台を5分で駆け足で回れる。もう今は素手で岩も砕ける。もう完全に異常だろ。

しかし、体格には全く変化がない、以前と同じく、ちょっとひょろっとした体格で筋肉もつかなかった。意味が分からない。


これって、この世界では普通なのか?だとしたら女神さまがここに俺を落としてくれたのが理解できる。

体をこの世界の基準にあげれるまでほかの生物との接触を避けれるからな。

この高台でさえ360度ぐるっと見回しても地平線まで深い森に囲まれているようだし。

待てよ、どうしてこのモフたちはこんなに軟弱なんだ?動きも鈍いし、木の実をとるのもやっとのような作動だし、ここはそこまで安全地帯なの?



数日後の夕方、なぜモフたちがここまで危機感なしでいられるのか、納得した。

俺が水際で体を洗っているとき、一瞬のうちに角ウサギたちが俺を取り囲んだ。

え?どうした?と思いきや、頭上からすさまじい轟音が響く。

空を見上げると、身長10メートルほどもの飛竜が俺たちを目指して急降下してくる。

咄嗟に俺も反撃しようと思ったが、

「大丈夫、動かないで」と誰かが頭の中に話しかけた。

俺もびっくりして一瞬行動が遅れ、その間に三匹の角ウサギが信じられないスピードで宙に飛び上がり飛竜に体当たりしたと思ったら、飛竜が叫び声をあげて地上に落下した。

恐る恐る近づき、生死の確認をしたところ結果は即死。のど、それに胴体が三か所でほとんど切断されている状態だった。


…君たちそんなに強かったのか?というか、最強種族に見えてきた。

そして、その三匹のウサギたちがその死骸を爪で細切れにしている。

それに群がるモフたち...


五分でもうほとんど飛竜の肉はモフたちの腹に収まっていた。

一匹のウサギが一部の肉を分けて、「このお肉は君のね」と念話で話してきた。


俺は「お、おう、ありがとうな」と何とか返した。お前たち俺の考えていることがわかるのかよ。

怖いよ、超怖い。俺、下手したら初日に死ぬところだったよ。


どうやらまた俺の考えが読まれていたらしく、「大丈夫、女神さまに君をしばらく守っていてくれと頼まれた。それにあの時は君もまだ弱かったしね」と言われ、ちょっと安心した。


モフたちに名前はないようだが、この一回り大きい奴が俺と対応してくれているので、ウサと呼ぼう。

ウサの説明によると、ここに来る魔物はよほど無謀な個体なようだ。ほかの魔物はもうこの辺りには近寄らない模様。

「ただ、君の存在があの飛竜を呼び寄せた可能性もある」と言われた。

魔物は魔力が高い生物を補足するとその魔力が追加されさらに強い固体になるという。そして、俺には恐ろしいほどの魔力量があるようだ。ほかの魔物が俺を食いに来ないわけは、ここがが絶対に近寄ってはいけない場所と認識されているからと言う。

ウサ曰くここから離れる前に「あと一年ぐらいはここで鍛えたほうがいい」とのこと。

俺はその言葉にうなずくことしかできなかった。










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