産声

 彼女はその日産声を上げた。

 彼女はその日初めて誰かを愛した。

 彼女はその日初めて誰かを憎んだ。


 男は彼女を救おうとした。

 おかしくなっていく彼女を何度も止めた。

 男は気付いた。何度も地面を抉った結果一人の女性を描き上げていたことに。

 男は彼女を大切にした。

 悲しそうに見えれば描き直した。

 怒りに満ちているようであれば描き直した。

 喜んで欲しいと描き直した。

 笑って欲しいと何度も描き直した。

 そうすると何事もなかったように彼女は平穏を取り戻した。


 男は救おうとしただけだ。

 だから気付けなかった。彼の手はもう血で汚れていることに。


 知った時には全て遅かった。

 ゆっくりと、ゆっくりと男はおかしくなっていった。

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