第4話 温室

 生前……というべきか、とにかく革命前に王妃が贅を尽くして建造したものに、巨大な植物園がある。

 かつては王妃と、彼女に招かれた者だけが出入りできる秘密の花園だったのが、革命後は一般に開放され誰でも出入りができるようになった。

 植物園には温室もあり、珍しい果樹や花などが植えられていて、訪れる人々の目を楽しませている。

「まあ、綺麗ね」

「王妃、お静かに」

 布をかけた鳥籠の中におさまった王妃の生首は、シャルルに連れられて温室の植物を観賞していた。シャルルに注意された王妃は声を落としてヒソヒソと話し出す。

「新しいお花も増えたみたいね。見たことがないものがたくさんあるわ」

「新政府の中に植物に詳しい者がいるのでしょう」

「それにしても、ここは遺しておいてくれたのね。良かった。」

 リュシフェルは、かつての王立劇場やら貴族の屋敷やらを数多く破壊してきたが、今後の政府に使える施設や、一般に開放して使えるモノなどは保存しており、植物園がその1つだったのだ。

 かつての自分だけの憩いの場所が、民衆に踏み入れられる場所になってしまったことを王妃は嘆くかとシャルルは少し心配したが、彼女は目を伏せ……首を横に振ろうとしてもできないのだ……言った。

「遺しておいてくれただけでも幸運よ」と。

「でも、そうね。みんなにとって、私はもう亡くなった人なのね。居なくなってもこまりはしない。みんな幸せに笑ってる。喜ばしいことなのに……それが少しさみしいわ」

 王妃は、温室の外の原っぱで、敷物を広げてピクニックを楽しむ仲睦まじい家族の姿を遠くに見ながら、言った。

「……きれいだったわ。もう良いわシャルル、布をかぶせて。もし誰かが私を見たらびっくりしてしまうものね」

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