第3話 だんまり
今日もまた、新政府の反逆者たちが、かつての王都……今は革命首都と呼ばれている……の広場にある断頭台にのぼった。多くの民衆たちが見物にやってくる中、黒衣に身を包んだシャルルはいつも通り淡々と、反逆者たちの首を斬りおとす。文句どころか一言も喋らずに。青白い肌の色も相まって、その姿はまさに死神であった。
シャルルは、少しでも受刑者の苦しみが少なくなるよう、斬り方を日々研究しているのだが、だからといって、生命を刈り取るこの腕の重みが消えるわけではない。これは神が自分に与え給うた使命なのだと自らに言い聞かせてはいるものの、シャルルはそれで平気な顔ができる男ではなかった。
断頭台にあがった者たちは、みな口を結んでだんまりを決め込んで、命を散らすことを誇りに思っているような顔をしてくる。しかし受刑者たちの身体が、最期の瞬間まで恐怖で小刻みに震えていることをシャルルはよく知っていた。覚悟が本当にきまっていたのは、かつての国王と王妃くらいのものだ。
みんな見栄など張らずに、泣き喚いて命ごいをすれば良かったのに。そうすれば、かつての王たちにも、新政府の政治家たちにも、おもしろ半分で処刑の光景を見物にやってくる民衆たちにも、少しは人の命の重さがわかっただろうというものだ。
「ご苦労だった」
新政府の代表者リュシフェルが、シャルルに声をかける。顔立ちが整ったこの伊達男は、革命の中心人物であり、現在の新政府の代表であり、王家を滅亡に追い込んだ男だ。王家を滅ぼしただけでは飽き足らず、今もなお邪魔者を処刑し続け、かつての仲間でさえ消す男。
シャルルはいつものように彼を無言で一瞥すると、いつものように立ち去ろうとした。
「近頃顔色が良いじゃないか。最近女ができたという噂を聞いたが、本当かな?」
「……あなた様には関係のないことでございます」
低い声に、リュシフェルは意外そうに片眉を跳ね上げた。
「そう邪険にしなくとも良いだろう? 君は新政府になくてはならない存在だ。君の幸せなら私も応援するよ。ゆくゆくは結婚してご子息に恵まれますよう……おっと、さすがに気が早かったかな」
そう言って、肩にぽんと手を置く。要するに、邪魔者を処刑する首切り役人はお前らしかいないのだから、早く後継者を作ってくれということだ。
国王陛下、王妃陛下を消し、自らが王になったかのように思い上がったお前には、いつか必ず神の裁きがくだる
言ってやろうかとも思ったが、そこまで気にかけてやる義理は無い。
シャルルは黙ったまま、今度こそ立ち去った。
あの男の前では余計なことを言わないように。それはかつて、自分ひとりの生命を守る為の処世術だったが、今は王妃の身を守るためにも必要だった。
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