第555話 北の謀略⑮

 尚も異論と反発が残るが、それにも対処していかねばならない。プットラン、そして『リクルチュア』をこの先も残すためにも、汚れ役憎まれ役としてなすべきをなすのが彼の使命なのだ。


 そして、休む間もなく本題の『エスセナリア家』と『副団長』の件に移る。ジョウが同家の主、すなわち領主の座をとるとの宣言である。これは『ルッサ』側からも、そして『黒龍団』の『ルッサ派兵隊』からも証言が寄せられていた。


「違うんだよゲーマン………様! こいつらあんまりあれだからさ」


「こいつとは何だ!」


「少し、黙ってて」


 長女と5女に叱られて、少年はバツが悪そうに下を向いた。それだけ見ると、とてもつい先日の殺戮や宣言を行った者と同一とは思えない。


「ジョウよ、まさか私の地位を奪おうなどとはあり得んよな? な?」


「あったり前だぜ! だってそれってプットラン様のだろ?」


「う、うむ、そうであるな。わかればよろしい」


 プットランはホッと息を吐いて汗をぬぐった。


「この通りに、本当にその場の勢いといいますか………」


「餓鬼なんですよ、餓鬼」


 美女と宝石青年はことさらに少年を軽んじるように言った。この件は取るに足らないことであり、『黒龍団』のには揺らぎがないと暗に示しているのだ。他の面々は空気を読んで沈黙を保っている。


 重臣らは当主と副当主の意に従う姿勢であった。『黒龍団』の戦力は欠かせぬものであり、また、ジョウはプットランのお気に入りである。


「アイラセク様達も、御支持されますまいな?」


「当然!」


 四重奏での答えだった。ただ、娘たちの半数は真意を偽ってのものだ。


「副団長殿、今後は発言に気を付けるように。当主様直属の護衛団にして軍人でもあるのだから」


「あ、わかり………ました」


「頼むぞ。重要な時機だ」


 ゲーマンは内心では苛立っていた。子供じみた軽挙、その力に見合った野心への警戒、にもかかわらず彼を重用せねばならない現状について。『リクルチュア』から今『黒龍団』一派が抜ければ、崩壊は明らかであった。


 単純な戦力以上に、その『周辺』が無視できぬほどに拡張しつつある。『疫病』の連中を囲い込み、許可したとはいえ増員にも熱心、さらには領主の一族との関係も変化を見せている。


シャナクの7児シャナク・シン』の件もあり、懐柔のための処置も多数とってきたが、制御することに自信を無くしつつあった。そこへこの騒動、冷徹な仮面を剥ぎはしないが、何発かは殴ってやりたい気持ちを副当主は禁じ得ない。

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