第554話 北の策略⑭
「ほんの出来心………というか、考え無しでして。『傭兵』上がりの子供の戯言なんです」
「彼の功績、人柄は私も知っている。信じたいところだが………」
最初の報告から数日、『リクルチュア』は様々な方面からの情報を集めていた。『黒龍団』の
結果、この一件は一部隊の暴挙ということで決着がついた。『レンハイン』に攻められて救援を求めてきたはずの兵らは密かに敵と手を組み、救援へかけつけてくれた
当然、『南の橋』首脳部は納得しなかった。元々、『北の橋』は地理的に『東の橋』から攻め入られる恐れが少なく『同盟』に参加するうまみが少ない。それでも敵に回るよりはと再三の援軍にもこたえてきたが、恩をあだで返された形になり、プットラン他は怒りも露であった。『ラギラス』との協議も必要だが、同盟破棄の方向をとることはすでに決定の空気であった。
が、ゲーマンは異なる意見を持っていた。無論不愉快でこそあったが、これは好機でもある。
この一件、単なる裏切りではないと彼は見ていた。完全な裏切り行為でしかないのに、『ルッサ』首脳部は前述のようにあくまで末端の暴走であるとし、公的な謝罪を行い、償いとして物資の提供も約束した。この状況でそうする意味はあまりない、離反を誤魔化すにしてもこうも行き当たりばったりな行動を取っては周囲からの信頼を失ってしまう。如何にもとより孤立気味であったとしても、最低限の筋がなければ集団として生存を勝ち取ることは不可能だ。
とすればこの矛盾した行動の意味は? ゲーマンは同橋内部に分断が生じていると推測した。リリシアが当主になる前の『ラギラス』同様に、後継者問題、あるいは『同盟』と『レンハイン』のどちらにつくかで割れているのだ。間諜らからもそれを裏付ける情報が入っている。
ここで『同盟』派に協力して主流へ押し上げることができれば、『ルッサ』には親『リクルチュア』政権が誕生する。過大な援助は不可能であるが、それとなく介助をすれば今後大いに同橋に恩恵をもたらしてくれるはずだった。
ただ、それもあくまで希望的観測に過ぎない。何よりも、裏切られた事実の前では未来の実りなど画餅に変わらなかった。『計画』のためには、その画餅を少なくとも実態あるものとして見せる必要があった。今回の落とし前について同僚と主を納得させるのには骨が折れ、粘り強い説得の末ようやく合意を得た時には、湯を浴びた後のようでただでさえ細い体が一回り絞れたようにさえ見えた。
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