第553話 北の謀略⑬

「………マイアさんに言いますから」


「いいぞ、俺悪くねえもん」


 帰還の流れが出来ると、動揺する他の隊員らにもその準備に勤しむだけの冷静さが戻って来た。それぞれが、改めての力の凄まじさを目の当たりにして動揺が隠せない中、モノと娘たちはまた別の光明と憤懣を見いだしていた。



 改めて召喚された『黒の龍スカル・シディアン』は不機嫌で、搭乗は許可したもののその心地は最悪だった。表皮は鉄の如く硬度で突起もあり、周囲の冷気を伝導して氷も同様、龍は無論背に乗る小蠅のことなど頓着しない。十二分の防寒もさほど役には立たず、一同思うは懐かしき『リクルチュア』のことだった。


 そんな中、ジョウは冷気と戦いつつ冷静に先ほどの一戦を反芻していた。結果だけ見れば力押しによる圧勝であるが、その実は全く別の感慨を少年へもたらしている。


 『シャナクの7児シャナク・シン』疑惑という例外を除いた場合、自身のもつ魔人で最も強大なのは『黒の龍スカル・シディアン』だが、それですらでしかないのだ。ルーパやバンドウ以降は出会っていないが、『黒龍』が抑え込まれたどころか敗北した場面もある。


 周囲からの話を聞くに、この世界にはゼタ、ムードなる『シャナクの7児シャナク・シン』持ちがおり、鍛錬の果てそこに自分が並べるしれない程度。絶対的な力などありはしないと思えた。ラオフ・ティグ、武器術、魔法の鍛錬も続けているが満足いく結果には遠い。特に『妹』たちを守るためには。


 真正面からのぶつかり合いではなく、裏をかき相手の力を利用する。それが自分の生きる道であろうと確信に近いものがあった。敗北、苦戦ではなく何のことはない戦いでこの思考に至ったのは、それが『ルッサ』の裏切りと『兄』としての覚悟が同時に訪れたためかもしれなかった。


 『リクルチュア』へ帰還した後、ジョウ、クラハ、ジシルたちと娘らは報告のために登城を命じられた。同盟相手の裏切りという重大ごとでありながら、あっさりとその場は流れ、少年はいぶかしみつつも『黒龍団宅』へと戻った。


 しかし、本番は後日であった。まず、マイアに呼び出されて殴られた。理由は無論、『ルッサ』兵らへの宣言である。


「このバカ! あんたも何してんのよ!」


「すいません」


「な、何そんなに怒ってんだよ?」


「本当に………バカ! いい? もう何も言うんじゃないわよ!」


 その言葉から程なく、城からの使いが来た。先日同様に『ルッサ派兵隊』の一同と、マイアとジーク、それから『エスセナリア家』の娘が顔を突き合わせて、ゲーマンらからの詰問を受ける羽目になった。


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