第551話 北の謀略⑪

「お前ら馬鹿だな、これが一番なんだ」


 そして、ジョウは微塵も揺らがない。『覇王』がそうであるように。


「戦場に出てくんのが間違ってる。カラフィナとキャコを見ろ、しっかり………まあ、たまに外に出てるみてえだけど」


「我らに命令する気か!」


「してるぜ。あ、あと元に戻っても『後継者戦争』もさせねえ。お前ら全員領主でやれ、うん、それがいいな」


「君、やっぱりおかしくなってるわよ」


 半ば匙を投げるようにヤイトが呟いた。偽りなら反逆、本気であれば世迷言だ。


「わかんねえ奴だなあ、生きるのが一番大事なのによ」


 無論、一言一句が本気であり、かつ彼は実現するつもりであった。


「ジョ、ジョウ、それよりも敵が………」


「お?」

 

 談義をする間、放置されていた『ルッサ』兵は攻撃の準備を整えていた。武器を構え、魔人を配置し、今にも仕掛けてきそうな気配である。


 少年はすぐさまに思考を切り替えた、戦いに際しての心構えはしっかりとできている。


「なあヒャンナ、面白えな」


「な、なにが?」


「お前のが全然来ねえ」


 ジョウは『焔斬剣ゲシャムゥ』を『現具』させた。敵兵はすぐさまに魔法防壁を張って来て、一撃を受けた後反撃に移るつもりのようだった。


「おいおい、シディアンの見てただろ?」


 少年の指摘は間違ってはいなかったが、防御を固めるのは基本の動きである。さらに先刻の『黒龍』の件が強く印象に残っているため、彼の魔人がいない今は轍を踏むことはなかろうとの判断もあった。


「あらよっ、と」


 しかし、目論見は敢え無く外れる。少年は燃える大剣を突如地面へと突き刺した。熱で土石が溶け、易々と鍔まで埋まっていた。


 一寸の後、敵兵らの足元から焔が噴き出ていた。大剣の焔が地中を溶かして進んでいたのだ。大蛇の如くのたうつ炎の渦が兵たちを飲み込み、悲鳴すらも肉体と等しく灰へと変えていく。身を守るための魔法防壁のために四散が封じられてしまい、内部では炎熱地獄が繰り広げられていた。


「何事も使い様だぜ………『雷神の糧リスニョースト』! 『黒豹の狂戦鬼パンサー・ウールブヘジン』!」


 双頭の山羊と黒豹が召喚される。黒豹は山羊の腹肉と腸を噛み千切り、血と脂で濡れた口を拭うと召喚主ジョウへと懐かしきふてぶてしい笑みを浮かべた。


「貴公の肉を食いたかったのだがな。ん? お初にお目にかかるお嬢さんたちだ」


「挨拶は後、やっつけちまってくれ」


 放られた『焔斬剣ゲシャムゥ』を受け取ると、にやりと一笑して黒豹は疾駆した。

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