第17話 講義②

 ヨムが豹の絵の上に、赤子の竜の札を置く。


「この召喚型なら、現実に出すのに大体10,火を吐かせるのに10、出したままでいるのに10ずつ。最低30の魔力が必要で、動かすのにはもっともっと魔力が要ります」


 続いて、剣の絵を指さし、そのままその先を焔斬剣ゲシャムゥ』へ向けた。


「『焔斬剣ゲシャムゥ』は現具。出すのに10くらいの魔力が必要ですけど、その後は壊れたり自分で戻さない限りはそのままです」


「ん? じゃあこれだけ使ってればいいじゃないか。魔力あんま使わないんだろ」


「ところが、そううまくいかないんですね」


 ヨムはカラフィナに説明を手渡す様に手をやった。少女は胸を張りそれを受け取る。


「現具は自力で動けぬのじゃ。要するに魔力でできた道具じゃな。人が使わねばならず、力も召喚型と比べると劣ってしまう」


「自分で持って戦いに出ないといけないし、より強いナビの遺産ルーンの攻撃で壊れちゃうこともあります。危ないですよね」


 ジョウは自分の足元に、豹と剣を描いて不等号を付け加えて。


「うまくできてんだな。で、最後の……憑依。よしっ、憶えてたぞ……憑依は?」


「召喚で出て来る魔人に、自分の身体を貸すんですね。魔人に変身しちゃうって考えると、わかりやすいかもです」


「魔力消費は現具より多いが、召喚よりは遥かに少なくて済むぞ、肉体を依り代にしているためだ。それでいて、力は召喚と同じじゃ」


「でも……欠点があんだろ?」


 よくできましたというように、二人はぱちんと掌を合わせた。


「魔人と己の意識が一緒に存在するからな、操縦が非常に難しい」


「一体になっちゃうから、攻撃を受けるとそのまま自分にも残りますね。下手すると死んじゃいますよ」


「なるほどな」


「例外とか、色々細かい決まりもありますけど、とりあえずは今のことだけわかってれば、それで大丈夫です」


 ジョウは、焔斬剣ゲシャムゥ』他二枚を手に取り立ちあがった。


「やり方は前と一緒だな? 最後に、焔斬剣ゲシャムゥ』以外はどんな代償があるんだ? それがわからないと、おっかなくて持てねえぞ」


「赤ちゃん竜の方は、『大竜晩成ティランノ』。さっきも言った通りに召喚型で、出してもすっごく弱いです。子猫ちゃんになら勝てる……かも?」


「ダメじゃねえか」


「いえいえ、その代わり、時間が経って魔力を吸うごとに大きく、強くなってくれます。最後にはもう……はい、めちゃくちゃ」


「そこに至るまでが大変じゃが」


 いまいち当てにできないという目で、『大竜晩成ティランノ』を見やるジョウであった。もう一枚の、鏡顔の道化師にも同様の視線を送る。


「こっちは?」


「憑依型の『影絵男スワンパー』です。ちょっと変わったナビの遺産ルーンですね」


「目の前のナビの遺産ルーンをそっくり真似られるのじゃ」


「真似る? じゃあ、『大竜晩成ティランノ』に使うと、もう一匹『大竜晩成ティランノ』が出て来るのか?」


「はい、でも、そんな勿体ない使い方は良くないですよ」


「勿体ないなあ……」


「それこそ、世界に一枚しかないナビの遺産ルーンだって、『影絵男スワンパー』を使えば複製できるんです。すごいですよね?」


 そう言われると、そんな気がするジョウであったが、そもそもナビの遺産ルーンを知りたてなため、いまいち腑に落ちなかった。


「この3枚、俺が持ってていいんだな?」


「はい、それはもう。ぜひ」


 ジョウは、『黒豹の狂戦鬼パンサー・ウールブヘジン』の時と同様に、3枚のナビの遺産ルーンをわがものとした。

霧散した光の粒子が腕に入り込み、豹頭の紋章に並び、炎を纏った剣、子竜、鏡の道化師が新たに出現した。やはり、熱さを感じて少年は小さく呻いた。

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