第16話 講義①

 ヨムからは、表面上なんの変化も読み取れなかった。だが、カラフィナの口を塞いでいた手を離すと、スカートの裾を持ち、片足を引くともう片方の足を曲げ、軽く頭を下げた。


「確かに、説明不足ですね。すいませんでした。この『焔斬剣ゲシャムゥ』、刀身に炎が纏っているため、常に焚火に間近で当たってるような熱さに襲われます」


「結構きつそうな代償だな?」


「それと、剣はかなり重いですね。炎の熱で大抵のものは焼き切れるんですが、その分自分に当ってしまうと大変です」


「焼き切るってのが、強い所か」


 ヨムがカラフィナに目くばせをすると、少女はしたり顔でジョウに返答した。


「魔力の消費は少ないぞ。それから、剣術の腕が多少上がる」


「ジョウさん、剣の練習とかはしてませんでしたよね?」


「ああ」


 刃物は包丁とナイフ程度しか握ったこともない。村の生活に剣術の入り込む余地はなく、剣を練習する時間があれば農作業や家事をしろと殴られるのが関の山だった。


「他に代償と強いところ……あ、そういや、3つの種類って?」


「召喚、現具、憑身じゃな」


 カラフィナは膝を曲げると、地面に石で絵を描き始めた。人らしき形から出た丸いものが、火と水に変わる様子が示される。


「魔法の原理は、魔力の変換にあるのじゃ。魔法を火に変えれば火魔法、水に変えれば水魔法。他にも無数の種類がある」


 次に描かれたのは、ナビの遺産ルーンらしき札。そこから、また3つの絵へと派生する。豹らしき獣、剣、人と鳥の絵だ。


ナビの遺産ルーンはそれの応用じゃ。召喚は魔力を注ぐことで、札の中にあるその魔法を呼び起こし使役する。現具は、魔力によりその身に実を持たせる。憑身は召喚に似ておるが、もちぬしの身体を借りて現れる点が異なるな」


 ジョウは腕の豹の紋章を見やった。


「召喚は『黒豹の狂戦鬼パンサー・ウールブヘジン』みたいなのか」


「そうじゃ、『焔斬剣ゲシャムゥ』は現具。そして、それぞれにさっき話したような特異な力が宿っている」


 身をかがめて、ジョウは豹の絵と剣の絵を指さした。


「肉を食われる、熱い……なるほどな」


「それぞれ、利点と欠点があります」


 ヨムも身をかがめて、絵を順に指さしていった。


「召喚はある程度自分で動いてくれますから、近くにいなくても大丈夫なんです」


「遠くで隠れてても平気なのはいいな」


「その代わり、魔力の消費が大きいぞ。出てる間はずっと魔力を吸い取るし、何かする度にどんどん魔力が削れる」


 カラフィナが付け足した。どうやら、この少女はヨムよりも豊富な知識を持っているらしい。

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