第13話 快癒と明日と

「よし、読めるぞ」


「服は一回洗っておきましょう」


 さらに、そこには本と二人の衣服がしまい込まれていた。当然煤にまみれているものの、服はヨムが川で洗って、本は丁寧にカラフィナが煤を払っていった。本来着ていた仕立服に着替えた二人は、会って間もないのに見馴れた感じがした。


自分も、何かをしまっておけばよかった良かったと思ったジョウだったが、考えてみれば私物は何も持っていなかった。着ていた服も、村長宅から失敬したものである。


 ヨムはかいがいしくジョウの治療をしてくれた。といっても、薬のような気の利いたものはなく、薬草の判別もつかないため、傷に当てた布を清潔なものと取り換えて、栄養のある食事を用意するのが精一杯だった。要は少年の自己治癒力だよりだが、運よく合併症を引き起こしたりもせず、ジョウの胸の傷は少しづつ塞がっていった。

 

 焼け落ちた他の家々の残骸から使えそうなものを回収したことで、不自由ながらも日常生活は可能であった。金属製の鍋やナイフは多少変形しながらも姿を留めていた。意外なことに回収にはカラフィナも参加し、必要とあれば些事もこなした。それ以外の時間は読書に没頭していたが。


 幾日が経ち、どうにかジョウは動けるようになった。まだ布あては外せないが、出血は大分おさまってきている。布あてを変える度に直視することになる、不気味に陥没した胸部の傷跡はぞっとしなかった。まだしっかりと痛みを感じる。


 リハビリを兼ね、火起こしや水汲みを手伝うようになり、食事は意識して多くとって睡眠もとった。特に根拠はないが、寝ているよりも体を動かした方が治癒が速いと思ったからだ。相変わらず悪夢はおさまらず、覚醒の繰り返しに二人は不審をおぼえたようたが、痛みによる目覚めだと誤魔化した。


 隣村の男達の亡骸も弔った、襲撃者であるし同情や憐憫は抱かなかったが、放置しておけば虫や鳥獣を呼び、新たな病を引き起こす危険もあった。ヨムも手伝うと言ったが、ジョウは断って、村人らと同じように全てを一人で片付けた。


 それが終わる頃、とうとうジョウは胸の傷から当て布を外すことができた。痛みは大分引いており、かさぶたが傷口を覆っており動くのには不自由しなかったが、今度ははげしい痒みに襲われて、かきむしらないよう苦労した。


 快癒祝いにと、その夜はヨムがいつも以上によりをかけて作った具沢山シチュー鍋が出た。食事がすむと、ジョーは腕の豹の紋章をさすりながら、放置していた疑問の答を得るべくヨムへ尋ねた。


「これ……っていうか、あの札は結局何なんだ?」

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