第11話 黒豹の狂戦鬼
「これが……?」
「ジョウさん、これをあなたにあげます」
「は?」
「いいですか? これは、もうジョウさんのです……認めてっ」
「……わ、わかった、俺のだ。それでー」
ジョウが『豹の札』の譲渡を了承した瞬間、札は光る粒子となって霧散し、少年の腕へと吸い込まれていった。
「うあっ⁉」
「おお、こうなるんじゃな」
カラフィナが感嘆とともに、ジョウの腕を観察した。腕に吸い込まれた粒子は、まるで血管に入り込んだのか光るそれを浮き立たせ、一瞬少年に疫病の悪寒を予感させた。
次にそれは縦横無尽に腕を駆け巡ると、丁度上腕の中ほどに集まり、豹の頭のような紋様となり、熱と共に刻み込まれた。ジョウは顔をしかめたが、声を漏らすほどの苦痛ではなかった。
「なんだこれ……?」
「ジョウさん、ここからですよ。こう言ってください、『出でよ、『
「な、なんて?」
「『出でよ、『
「あ、ああ……」
ヨムの剣幕に気圧され、ジョウは奇妙な宣言や、その名、魔人
という物騒な言葉の真意を聞きだすことが出来なかった。出来ていれば、その未来はもう少し平穏であったかもしれない。
「え、えっと……出でよ、ウ、ウ……?」
「『
「やたらと名前が長いな」
「……い、出でよ、『
ジョウの腕の紋章が光り、刻まれた時と逆再生の動きで、その手に札として姿を再編させた。だが、今度は札自体が輝きを保ち……不意に砕けた。
何が起きたのかを、最も正確に見ていたのは、燃え盛る村を包囲監視していた男たちだった。家から飛び出た物体のうちの一つが輝きと共に弾けたかと思うと、そこに巨大な影がそびえ立っていたのだ。
いや、正確には巨大な影が1つ、比して小さな影が3つだ。巨大な影は人ではない、炎に照らされて露になった姿は、黒豹の獣人であった。四肢を金細工の宝石で飾り、反射で闇夜に眩しさを感じさせる程に輝いている。が、それよりも獰猛な緑色の瞳が爛々と浮んでいた。
「やはりな……」
黒豹、ヨムが言うところの魔人は、呆気にとられるジョウを見下ろしながらそう呟くと、不意に少年の胸に噛みついて肉を食いちぎった。
「ぎ、ぐぎゃああああっ⁉」
絶叫するジョウには目もくれず、魔人は食いちぎった肉を咀嚼し嚥下すると、その姿を消した。
それから瞬きの間に、男達の半数の喉が抉られた。あちこちで血しぶきがあがり、糸の切れた人形のように倒れていく。そしてもう一度の瞬きの間に、残る半数の男達の顔が崩壊した。切創で目も鼻も口も潰れ、肉と骨が混じあった肉塊から、悲鳴とも呼気ともつかない空気が漏れ、例外なく顔だった残骸を手で抑え込みゆっくりと膝をついた。
苦悶するジョウを抑え込み、抉られた胸の止血に努めるヨムと、それを観察するカラフィナの下へ戻った魔人は、血に濡れた口と爪を舐め取りジョウへ言った。
「これからよろしくな」
ジョウは挨拶を返さなかった。激痛と襲い来る疲労に意識を保てず失神したからだ。悪夢に襲われ覚醒した時にはすでに魔人の姿はなく、胸部の痛みと失血ですぐにまた意識は途絶え。悪夢へと歩み出す羽目になった。
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