第9話 起死回生の札
「火矢⁉ ふせろ!」
ジョウが二人を押し倒したのを契機とするように、無数の矢が撃ち込まれてきた。あちこちから窓の敗れる音と、外壁に突き刺さる乾いた音がした。炎のぱちぱちという音と臭い、煙が漂ってきた。全方位から家は襲われ、内と外から炎が飲み込もうと迫る。
火矢という存在は知っていたのに、それで攻めて来ると思い至らなかった自分をジョウは呪った。日々の生活では火矢を要する場面などなく、実際に使用されるのを見たのはこれが初めてだった。
「なるほど、効率が良いのう」
「感心してばっかりいられませんよ、このままじゃ焼死ですよ焼死」
残されているのは、家を出て森へ逃げ込むという手だが、森の中は当然襲撃者たちも熟知しており追撃を受ける。なにより、
「後は……あいつらをどうにかとっちめる……か。参ったなこりゃ」
もし、ジョウ一人であれば森へ逃げ込み一縷の望みに賭けただろう。だが、今は二人がいた。一人は妹と同じくらいの少女。また、あがいても無駄かもしれない。そもそも狂気の生み出した空想に過ぎないかもしれない。それでも、二度も妹を
木の弾ける音が四方から聞こえ、煙が充満してきた。そろそろ籠城も難しい。飛び出せば、当然待ち構えていた矢が降り注ぐだろうが、それを承知で行くしかない。抜け穴でも掘っておけば良かったと今更ながらに思ったが、後悔は先に立たない。
「出る前に、食堂で鍋とかナイフとか持っていこう、それでー」
「ジョウさん」
女性、ヨムが少年の腕を掴んだ。生きた人間の感触のある、温かい手だった。もう一方の手には、掌におさまるかどうかの札のようなものが握られていた。奇妙な装飾の、見るからに禍々しい雰囲気が漏れ出している。
「何とかなるかもしれませんよ」
「ならわたしがー」
ヨムは少女、カラフィナの口を、札を握った手の甲で器用に塞いだ。真剣そのものの顔つきで、ジョウを見据える。
「ただし、一か八かだし、ジョウさんにかなり痛い想いをさせちゃいます」
「おい、そんなのあるなら、なんで今まで隠してたんだ⁉ それとその札はなんなんだ⁉」
「色々と事情が……切り抜けられたら話します」
カラフィナに目くばせをし、口を閉じたのを確認してから、ヨムは札をジョウの眼前に掲げた。
「やってもらえますか?」
家が大きく傾いた、炎が土台を焼き尽くしつつあり、このままだと窒息や焼死の前に崩れてきた燃える材木に押しつぶされそうだ。
「本当に何とかなるんだな⁉」
「はい! 多分……!」
選択肢はなさそうだった。ジョウは頷き、その札に未来を託すことを決断した。だが、まずは家から飛び出し襲い来るだろう矢をかわさねばならなかった。
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