第20話 戦闘・自壊する機人①
そのどれもが現代では解明出来ないオーパーツばかりであり、要塞都市ニヒトにて技術研究所が作り出した
アラタと相対する彼女もまた、遺物の一つといえる。
幾万通りもあった、その中で現存していたモノの一つ。
この存在は戦う為に生み出された、人であって人ではないもの。
身体を作り変え、より戦闘に特化する、謂わば闘争の為の進化を繰り返す者。
作り出した古代の愚か者達は名付けた。
その存在の名は
人の手によって作られた、機械仕掛けの歪なる生命だ。
アラタの目の前に現れたのは巨大な剣と巨大な鎧を纏った女…の筈だ。
手足は金属で覆われた恐ろしく肥大化したものとなっているし、胴体には、アラタの剣などで切り裂けるとは到底思えないような重厚な装甲を纏っている。
二の腕や太もも、中腹あたりなど、僅かに露出する箇所が女性的な細さを持っている事から、恐らく女性であると考えたが、この際性別など些細な問題だ。
リーチのある手足からくる機動力、攻撃範囲。
二メートル近いミストとほぼ同じ全長
だが緩慢な動きの奴等と違い、こちらは余りにも早く踏み込んでくる。
質量の暴力が、来た!
「ぐっ!?」
左へ、剣を持っていない側へと避けた、死角を取ってやる―――と思えば、身体は吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられ、勢いのまま身体は転がっていく。
「ぐっ……がっ……」
「あ、アカツキ様!?」
駆け寄ろうとするグレイを手で制する。
このまま下がれ、そう言わんばかりの表情でアラタはグレイへ顔を向けた。
「……はぁ、絶対に…来るなよグレイ!死にたくないなら尚更な…!」
相手はただ剣を振り下ろしただけ、ただそれだけで地面は割れた。
そして、その際に砕けた大小の破片が叩きつけた衝撃をもって礫となりアラタへと襲い掛かった。
先程はそれなりに大きな破片が直撃し、吹き飛ばされたのだろう。
体中は痛む。
だが幸いな事に破片によって身体が貫かれるまではいかなかったようだ。
「…結構やばい体勢で叩きつけられたけど折れてもいない…運がいいな、俺。全然倒せる気がしないけど…!」
剣を構え直し、再び動き出す。
相手に対して付かず離れず、自らは近づかずに、一定の距離を保ちながら周囲を動き回る。
機人は撹乱するように動き回るアラタの動きを捉え続けているが、身体の反応が追いついていないようだった。
小回りはやはり効かない。
そう判断したアラタは、タイミングを見計らう。
(柔い所を狙うのが上策…ってな!)
突っ込む。
機人の背後をとり、全力で地面を蹴った。
対して、恐ろしく早い速度で機人は後ろへと振り返る。
振り返りざまにその巨剣もまた、背後へ向けて横に払う。
(はやっ!?……けどさあ!!)
質量のある一撃はただ振っただけでも脅威だ。
だが、その振りの角度が甘い。
剣の真下を潜り抜けれた、一気に接近する。
アラタの剣が機人の脇腹を捉え、一閃。
赤い血が跳ねた。
「浅い…!?」
分かるのは剣から伝わる感触だけ。
視認する間もなく、アラタは距離を取った。
滑るように足を止め、そのまま崩れそうになる膝を抑えつけた。
息が荒い、汗が額を伝る。
この一瞬の突撃だけで、どれだけの神経をすり減らしたか。
アラタは機人へと視線を向けた。
その先には壊れた人形のように動きを止め、脇腹の傷を凝視する姿がある。
浅いながらも確かに切り裂いたそこからは、赤い血が流れている。
『…そん、しょう…されど……軽微』
傾けた顔を、そのままアラタへと向けた。
『腕部、再構築……
機人はアラタへ向け、手の甲を見せるように腕を突き出した。
「……何かやばいっ!?」
やばい。危険だ。動け。
察知した彼の勘が警鐘を鳴らし続けた。
とりあえず、その場から動くことを彼に促し、アラタはその本能に従った。
瞬間。発光。
『――――掃射』
腕に砲塔が生えた。
一度バラバラに分解されたのは一瞬で、分解されたパーツが新たな兵器を生み出しのだ。
エーテル砲。
機人によって再現された粒子兵器。
エーテル砲による一撃はその名の通り、エーテルと呼ばれる粒子の塊を相手へとぶつける事が攻撃手段となる。
赤く輝く光弾がアラタが立っていた地面を丸く抉り取った。
「マジか!?」
未知の攻撃、ここでまさかの飛び道具の使用。
しかし一撃で終わらない。
機人の二射目が来る、エーテル砲に新たなエーテルが込められた。
アラタは動き続ける。
その一撃はアラタにとって必殺となる一撃。
当たれば死ぬ、掠っても致命傷。
はっきり言おう。
機人の相手をたかが一人の人間では持て余す。
鎧のような単純な鉄を鍛錬した鎧とは訳が違う。
より頑丈に、より複雑に組み込まれた全身の守りを抜く手段はあるか?
否、それは困難極まりないだろう。
狙うとしたら、露出した生身の部分。
されど一撃でも当たれば終わりの相手の攻勢を一度の失敗もなく凌ぎ続けなければならない状況は、集中力を、精神を摩耗させていく。
相対した瞬間にして分かりきった結果だ。
このままではアラタは死ぬ。
圧倒され、蹂躙され、その生命を終えるのも時間の問題だろう。
とはいえ、アラタには退くという選択肢も与えられやしないのだが。
「…せめて、グレイを逃さないとな…!」
赤い光を放つ砲口が向けられる。
機人の無機質な視線はアラタを掴んでは決して離さない。
そこに敵意はある。しかし殺意はない。
意志ある行動は、どこにもない。
まさに人形、戦闘機械。
対象を殺す、ただそれだけに奴は目覚めた、動き始めた。
アラタは剣先を向けた。
せめてもの抵抗、一分一秒でも生き永らえる。
『排除』
「そう簡単にはされないんだよなぁこれが!!」
全力全開で抗うこと、それが今の彼に出来る行動だ。
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