第7話 …………もうすっかり夜になっちゃったね
その後も話をしたが、結局、詩音さんから感じていた悪霊の気配については何も分からずじまい。心の中で、大きなモヤモヤが渦巻いているのを感じる。
「ちなみになんですけど」
「何?
「
僕には、悪霊を引き寄せる体質がある。けれど、普通の幽霊まで引き寄せてしまうわけではない。
「あー。なんでかなあ。私もよく分からないんだよね。しいて言えば、何となく?」
「へ?」
詩音さんの思いもよらぬ返答に、僕の口から間抜けな声が漏れる。
「いや、本当に何となくなんだよ。たまたまこの道を歩いてたら、前の方に宗也君がいてさ。『この人なら私のことに気づいてくれるはず』って思っちゃったんだよね。だから声をかけたってわけ」
「そ、そんな理由で」
まさか、僕はついに、普通の幽霊まで引き寄せる体質を手に入れてしまったのかも。もしそうなら、今まで以上に苦労することになる可能性が……。い、いや。ま、まだ決まったわけじゃない。今回はたまたま。たまたま詩音さんが僕に引き寄せられただけ……と信じたい。
「まあ、宗也君は私に気づかないふりをしてたわけだけどね」
「すいません。こっちにもいろいろ事情が……って、あれ? 気づいてほしいだけなら、僕の前に回り込んで声をかければよかったんじゃ?」
詩音さんは、僕が振り向くまでずっと後ろから声をかけていた。しかも、『前世で君の恋人だった』なんて妙な嘘まで持ち出し、僕が振り向くかどうかを試した。けれど、よくよく考えてみれば、とても非効率な方法だ。僕の前に回り込んで声をかければ、僕が詩音さんの存在に気づくかどうかなんてすぐに判断できる。といっても。あの時の僕は詩音さんを悪霊だと思っていたから、無視して歩き続けたのだろうけど。
「え? ……あ」
僕の言葉に、詩音さんは口を開けて固まってしまった。数秒後、視線を右へ左へ動かした後、コホンと咳ばらいを一つ。
「…………もうすっかり夜になっちゃったね」
「思いつかなかったんですね」
「お、思いついてたよ! ただその方法は気がのらなかっただけ!」
公園の電灯に照らされた詩音さんの顔には、ほんのり朱が差していた。
「そういうことにしておきましょうか。で、これから詩音さんはどうするんですか?」
「むむむ。私を馬鹿にしてる気配がするよ」
「馬鹿になんてしてないですよ」
おっちょこちょいな人なのかなと思ってるだけで。
「いーや。絶対馬鹿にしてる。よし決めた。今夜は宗也君の家にお邪魔して、私がすごい人だってことを存分に見せつけてやるんだから」
ベンチから勢いよく立ち上がる詩音さん。腰に手をやりながら、ビシッと人差し指を僕に向ける。
見せつけるって、一体どうや…………ん?
僕の家にお邪魔して?
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