第6話 私と友達になってくれる人を探すこと

「私、産まれた時から重い病気にかかっててね。学校に行ってた時期もちょっとはあったけど、基本は病院のベッドですごしてたんだ。だから、友達も全然できなくて。毎日毎日『寂しいなあ』とか『他の子は羨ましいなあ』って考えてた」


「…………」


「十八歳になる誕生日の前日。ふっと意識が無くなって、気づいたら、目の前にベッドで横たわってる私がいたの。周りには、お医者さんとか親とかがいて、深刻そうな顔で私を見てる。ついに死んじゃったんだなってすぐに分かったよ」


「…………」


 何も言えない僕。「なるほど」とか「そうなんですね」とか、相槌を打つのでさえも失礼な気がする。詩音しおんさんの感じてきた悲しさや悔しさは、僕の想像をはるかに超えているのだろう。少しでも理解できたような言葉、言えるわけがない。心臓を鷲掴みにされたような感覚が、僕を襲う。


「幽霊になって、その後どうすればいいかも分かんなかったからさ。成仏できる方法を考えたんだよ。で、最終的に出した結論が、『私と友達になってくれる人を探すこと』だったんだ。ほら。生前の無念を晴らせば成仏できるって、幽霊が出てくる漫画とかじゃお約束でしょ。けど、これがまあ難しくて難しくて」


 幽霊が友達を探す。そんなこと、本当に可能なのだろうか。普通の人は幽霊が見えない。霊感を持ち、幽霊を見ることのできる人もいるが、積極的に幽霊と関わろうとは思わないだろう。関わることに意味がないからだ。そもそも、その人に霊感があるかどうかなんて、見かけでは絶対に分からない。


「他の幽霊と友達になるっていうのは試したんですか?」


「あー。何回か試したんだけどね。結局できなかったんだ。いくら話しかけても、全然反応してくれないしさ。反応してくれたと思ったら、こっちを襲ってきたこともあって」


「やっぱりですか」


 昔、冬治とうじさんから聞いたことではあるが、幽霊は基本的に他者とコミュニケーションを取らない。相手と話しても意味がないと思っているのか、そもそも自分がそこに存在していることを認識すらしていないのか。理由は幽霊によってさまざまだが、とにかくコミュニケーションを取ろうとしないのだ。そして、仮にそれができる幽霊がいたとしたら、悪霊である可能性が高い。冬治さん曰く、相手に危害を加えたいという意思が強いからこそ、悪霊はコミュニケーションに長けているのだとか。


 詩音さんにそのことを伝えると、「なるほどー」と合点がいったように手を叩いていた。けれど数秒後。何かに気がついたように、首をかしげる。


「あれ? じゃあさ。どうして私、こんなに宗也そうや君と話ができてるの? 私、誰かを傷つけたいとか全然思ってないよ。もちろん宗也君のことも」


「うーん。どうしてでしょう?」


 そう。詩音さんは、あまりにコミュニケーションが取れすぎている。話を聞く限り、詩音さんは悪霊ではなく普通の幽霊。となれば、ここまで会話ができるはずはない。あと考えられるのは、詩音さんが本当は悪霊で、僕を騙しているという可能性だけど……。


 僕は、じっと詩音さんを見つめる。整えられた長い白銀色の髪。クリクリとした大きな瞳に健康的な桃色の唇。「私、知らないうちに悪霊になっちゃったのかなー」なんて言いながら腕組みをするその姿は、到底僕を騙しているようには思えなかった。

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