第5話 ずっと探してるんだよ
近くの公園に備え付けられたベンチ。僕と女性は二人並んで腰を下ろす。時間も時間だけに辺りは薄暗く、公園に人影はない。まあ、それは逆に好都合。女性は幽霊なのだから、他の人に女性の姿は見えない。男子学生が遅い時間に公園で一人呟いている。そんなの、明らかな通報案件だ。
「さて、まずは自己紹介だね。私は
ベンチの傍に建っている電灯が、女性の白銀色の髪をキラキラと照らす。その光景は、油断すると見とれてしまいそうなほど綺麗に思えた。
「
「なるほど。じゃあ、天野君って呼ぼうかな。それとも宗也君とかの方がいい?」
「え? じゃ、じゃあ」
「ふむ。やっぱり、宗也君って呼ぼう。そっちの方が親密度高そうだし」
ん? 僕に聞いた意味は?
「あの。普通に天野君って呼んでくれた方がありがたいんですが」
「えー。なんかつまんない。あ、私のことは詩音でいいからねー。よろしく、宗也君」
初対面でいきなり下の名前呼びとは。むずがゆさを感じて仕方ないが、ここは我慢するしかない。呼び方うんぬんよりも、まずは話を進めることの方が先決だ。
「えっと。とりあえず、詩音さんのことをいろいろ知りたいんですけど」
「突然私のことを知りたいなんて、まさか告白?」
「ちょ!? そんなわけないでしょ!」
「確かに、宗也君とは運命的な何かを感じないでもないけど、さすがにいきなりは抵抗があるかな。まずは何回か一緒に出かけたりして、お互いのことをよく知ってから……」
「だから告白じゃないですって! というか、絶対分かってやってますよね!」
思わず叫び出してしまう僕。詩音さんの顔には、ニヤニヤとからかうような笑みが浮かんでいた。
「ごめんごめん。宗也君はからかいやすそうな顔をしてるからね。つい」
「からかいやすそうな顔ってなんですか」
僕の口からため息がこぼれる。それと同時に、肩に大きな重りが載るような感覚。人と話していてこんなにも疲れた経験は初めてかもしれない。
「ま、そろそろ真面目にいきますかね。どこから話そうかなー」
腕組みをしながらうーんと頭を悩ませる詩音さん。切り替えの早さに一瞬驚いたが、何も言わない。変に何か言ってしまったせいで話が進まないなんて御免だ。
これから一体どんなことが語られるのか。詩音さんに除霊の札が効かなかった理由は分かるのか。期待と不安が心の中で交錯する。
少しの沈黙の後、詩音さんはこう切り出した。
「私さ、半年前くらいに死んじゃって、幽霊になったんだ。それから、ずっと探してるんだよ」
「探してる?」
「うん。私と友達になってくれる人をね」
僕を見つめる詩音さんの瞳。けれどそれは、僕ではない別の何かを捉えているような気がした。
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