第4話 あ、あなた、悪霊ですよね?
女性の年齢はおそらく僕よりも上。整えられた長い白銀色の髪。クリクリとした大きな瞳に健康的な桃色の唇。真っ白なワンピースに身を包んだ彼女は、一見すると普通の人間。けれど、僕には分かる。彼女は普通の人間なんかじゃないということが。
「ふっふっふ。君をびっくりさせて振り向いてもらおう作戦大成功だね。あ、もちろんさっきのは嘘だよ。ふっふっふっふっふ」
ニンマリと口角を上げながらそう告げる女性。その姿はまるで、いたずらが成功した子供のよう。
僕は、急いで女性から距離をとり、制服の胸ポケットに手を突っ込む。そこに入っているのは、
「そりゃ!」
取り出した除霊の札を女性に向かって投げる僕。札は勢いよく女性の方へ飛んでいき、その胸元に張り付いた。あとは、札が自動的に女性を除霊してくれる。これまで何度もやってきた、悪霊に対する最終手段。
「……え?」
次の瞬間起きた出来事に、僕は目を疑った。
いつもなら、札が張り付いた瞬間に除霊が始まり、悪霊の体が薄くなっていくはずだ。しかし、いくら待っても除霊は始まらない。それどころか、札はヒラヒラと女性の胸元から落下し、その足元に力なく横たわった。
どういう……こと?
「このお札何? というか、君。初対面の相手にいきなり変なもの投げちゃダメでしょ」
拾った札を見せつけながら、頬を膨らませる女性。
一体何が起きているのか、理解が追い付かない。目の前の女性は悪霊のはず。けれど、除霊の札は効果を発揮してくれない。そんなこと、今までなかったはずなのに。いや、もしかしたら、除霊の札が効かないくらい強い悪霊という可能性も……って、あれ?
体の震えが止まってる?
「あ、あのー」
「どうしたの?」
「あ、あなた、悪霊ですよね?」
自分が変なことを聞いているのは分かっているが、聞かずにはいられない。女性からは、確かに悪霊の気配がしていた。つい数十秒前までは。が、今の女性からは、そんな気配は微塵も感じられない。本当に、きれいさっぱり消えてしまっている。また、女性の様子や言動から、実は生きている人間でしたなんてこともないだろう。
つまり、女性の正体は。
「へ? いやいや。そんなわけないでしょ。私、成仏できない普通の幽霊だよ。悪いことしようなんて全然考えてないし」
僕の質問に、女性は首をかしげながら返答した。
普通の幽霊。確かにそれなら納得がいくし、悪霊じゃない普通の幽霊も僕にははっきり見えちゃうけど。でも……。
肯定しきれない女性の答えに、僕の頭はさらに混乱する。
「…………」
「あれ? もしかして私、自分が知らない間に悪霊になっちゃったの? って、そんなわけないよね」
「…………」
「え? 何その反応?」
「……ちょっと、どこかで話しませんか?」
混乱する頭を整理したくて、僕は女性にそう提案した。
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