第4話 接触
青木はライブハウスにアイドルのイベントに来ていた。
目的は「とある男との接触」だった。
「やっぱり夏は、『イドアアコール』の季節ですな、ブルーさん!」
青木に話しかけた男がいた。上野グループの総本山、上野銀行の副頭取を務める谷口進。審問官は、この男の捜査をしていた。
アイドルに行くだけで、成果が見えない。谷口の影に人がいる。その影を捉えたいのだが、青木は手こずっていた。
アイドルたちは、20分ごとにグループが入れ替わり、様々な歌をとにかく全力で歌っていた。歌っている左腕には、もちろん時計が付いているが、それぞれ違和感がないように意匠されたデザインで誤魔化していた。
歌の流れをなんとなく覚えてきた頃、30分の休憩となった。
谷口が話しかけてきた。小太りのこの男は、すぐに汗をかく。
「いや〜、今年も豊作ですな。この後も特典会に並ばないとですね」
「えぇ」この男は思ったよりも親切だが、情報は何も教えてくれなかった。やはり上役である。
「いや〜、今年も豊作ですな。この後も特典会に並ばないとですね」
「えぇ」この男は思ったよりも親切だが、情報は何も教えてくれなかった。やはり上役である。
「お、アラームが鳴りました」
谷口の左腕の時計からアラームが鳴った。この時計は、本人の疲労度はもちろんのこと、その日のパフォーマンスや可能な運動量、気分のむらまで、その人にまつわることを把握できる。
「狂気スコア、という話がおかしいんですよ」
谷口が続けた。
「測れないものをわかったつもりになる。審問官もよく分からないモノです。適当に犯罪をでっちあげ、それに私達の税金が使われる。この世の中はおかしくなってしまったんです」
谷口はいつもよりも熱っぽく話した。しかし、この世代にはよくある発言であった。
しかし、時計を外すのは、確実に違法だ。外すだけで懲役6ヶ月から最大で5年。初犯は執行猶予と『矯正院』行きが確定する。
毀損の場合は10年まだ伸びて、問題は『国家転覆』と認められると、無期拘禁となる。
そんな馬鹿なこと、こいつはしない。いや、だいたいの庶民はしない。
今回も収穫は無さそうだな、と青木は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます