第6話 動転
「こちら三宅! 状況を報告しろ!」
「こちら青木…」の声に被さるように「こちら佐々木」と声がした。いつの間にか8階に合流し、様子を見ていたらしい。
青木は思わず声が漏れた。「ちくしょう…」
「こちら佐々木。ターゲットは8階から下の控え室に避難した模様。発煙筒を発火した犯人は行方不明」
続いて通信から、
「パァン!! パァン!」
と銃声が響いた。三宅から
「どこからだ?」
「こちら青木。8階から9階の非常階段が開いた形跡あり。追いかける」
「こちら佐々木。青木に同行する」
三宅が制した。
「待て。指示を出してないのに持ち場を離れるな」
「上級の田中だ。非常事態に備えて、割り振りを変える。佐々木と青木、そして三宅課長は、持ち場を離れて、敵を追ってくれ。杉本、井上は合流しろ」
「「「了解」」」
青木が本屋を出て、非常階段へ走った。佐々木もすぐ後を追った。
8階から屋上に向かう灰色コートの男と10階から降りてきた井上は、階段の踊り場で向かい合った。下から青木と佐々木は登っていく。
もう一度、銃声が響いた。
「井上さん!!」
灰色のコートの男の発砲の反動に合わせるように、青木は走り出し、相手の隙に低姿勢でタックルした。相手は、そのまま前に倒れ込んだ。幸いにも、素人だったからか。無力化は簡単であった。
「井上さん!」
「藤本は上から避難している。安全を確保しろ……。撃たれたとこ、いってぇ、まじで、痛ぇな……」
******
消防と警察と救急がやってくるのには、30分も掛からなかった。
容疑者を警察に送り届けた青木は、商業ビルの1階に「関係者室」に偽装した審問官特別本部に戻っていた。佐々木が言った。
「井上先輩は大丈夫だ。死んでない。すぐに処置を受けている」
「あ、あぁ」
青木の左腕が2回震えた。
後から、三宅が言った。
「顔色が悪いぞ。ちょっと負担が重たかったか?」
「いや、自分はまだ」
佐々木が慰めるように言った。
「相手は、上野グループの側近でした。自分と青木の顔を覚えていたんでしょう。わざと死角から入り込んで、後ろから迫ってきたと思われます」
「そうか」
青木は言った。
「いや、これは自分のミスです」
「もう良いから。警察に呼ばれてるだろ。水飲んだら、警察署に行ってくれ。こちらのことはあまり喋らないように」
三宅は、これで話は終わりと特別本部の机に戻り、
「佐々木はもう少し残ってくれ。残務処理だ」「はい」「杉本は病院に行ってる。永野は警察にお願いして、応援してもらえ。こちらの人員が足りん。俺は上級に署長から許可もらうよう言ってくる」と指示を出した。
扉から上級の田中がやってきて、
「許可は2分前にもらったぞ。三宅。連絡は俺がやるから、8階の状況見てきてくれるか?」
と言った。
三宅は、一瞬怯んだが、
「分かりました」
と言った。
******
田中は、缶コーヒーを飲みながら、一人になった特別本部室でひとりごちた。
「ちょっと落ち込んだ二人を慰めようと思ったんだけどね。今時の若者の扱い方は分からんね」
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