第2話 計画

「ただいま戻りました」

 捜索を終えた三宅準1級審問官が事務所に戻ると、署長室から片手にマグカップを持って恰幅の良い男が出てきた。契約者保護庁契務監査署、署長内村1級審問官である。

「おー、どうだった」

「署長。とりあえず無事に終わりました」

「そうか。よくやった」

 内村はコーヒーを啜った。湯気がゆっくりと立っていた。



 更衣室にて。捜索を終えた10数名の男たちが、着替えながら全員に向かって雑談をしていた。

「国家転覆なんて、久しぶりだな」「6ヶ月ぶりぐらいすか」「そうだな」「え? あぁ、そうか、前回って選挙の時だったか?」「そっす」「三倉は居なかったけ?」

 

 

 署長室で、三宅と署長の内村、上級審問官の田中、三宅のバディの伊東の4人が今回の報告を行なっていた。

「今回の件については、既にお話ししたとおりですが、与党の議員と株式会社上野銀行で、国家転覆に関する工作と土地の売買の疑いが出たものです」

 上野銀行とは、言わずも知れた日本5大メガバンクの一つである。

「父親が社長で、息子が参議院議員ね」

「はい」

「それで、国家転覆ねぇ」

 署長の相槌に上級の田中がぼやいた。「10年前なら、贈賄罪か特別背任ぐらいだろう、ちょっと大袈裟な時代だよな」

 三宅が話を進めた。

「今回はタイミングが契約前だったので、助かりましたが、契約後となると少し厳しかったかと」

「課長、証拠集めは?」三宅1級審問官は審問課の課長であるため、課長と呼ばれている。

「正直、良くないですが、捜査を続けます」


 今回、捜査線上に上がってきた衆議院議員の宮下優。彼の秘書であった下柳は、ここ3ヶ月間、狂気スコアが50台から70台をうろうろし、度々アラームを鳴らしていた。このスコアは、審問官に適宜共有され、情報が回ってきたのだ。

「宮下が下柳を捨てれきれず、庇い続けたのが、落ち度だな」

「上級」三宅は嗜めるように言った。田中が「まだ始まったばかりだからな」三宅は、心の中でそういうことでもないです、とひとりごちた。



 会議を終えた三宅の前に青木は立っていた。

「課長、自分上がります」

 青木はそう言って、三宅は、

「あぁ、帰っていいぞ。明日から、また別の案件の処理をお願いな」

「今課長が持ってるやつすか」

「そうだ」

「へい」

 と三宅が行ったところ、一度窓の外を見て、

「……そういや、青木はもう帰るのか? バディの佐々木は良いのか?」

「あー、いや、帰って自分パチンコ行ってきやす」

 青木は上司の顔を見た。この人はよく真顔で、何を考えてるのか、分からない。嗜められてるのか、認められてるのか。三宅も青木の顔を見ていた。こいつの表情は読めない。

「そうか。あんまり無茶なことすんなよ」

 ただ、そう言って、目をパソコンの画面に落とした。



    ******



 捜索を終えた審問官の行動は、ばらばらだ。

 夕焼けに浮かぶ三日月の下、街中の喧騒をとてもうるさく感じた。青木は、よく思う。この街中で、よく狂わないでいられるよな、と。

「まずはコンビニかな」

 だんだん暗くなる街に青木は入っていった。



    ******



「三宅課長。終わりました。バディの青木見ましたか?」

「佐々木か。青木なら先に帰ったぞ」

「そうですか、やっぱり」

 三宅は青木のバディの佐々木を見つめた。佐々木は、にこやかに笑みを湛えていた。営業に向いている性格なんだろう。

「なぁ。佐々木、青木の調子はどうだ、最近変わったことは無いか? 例えば、女ができたとか」

「いえ、そのようなことはありませんよ。課長。どうかしましたか?」

 佐々木の顔は変わらなかった。

「いや、今日の逮捕で、青木の時計が一回鳴っただろ? 元々青木はよく鳴るやつだし、別に困ってないんだが、気になってな……」

 佐々木は、得心が行ったように頷いね

「はい。バディとして気にしております。青木の正気は見てますよ」

「そうか、すまんな。お疲れ」

「お先に失礼します」

 佐々木を見ながら、三宅は自分の仕事に戻った。

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