白い部屋
目を覚ますと、天井には白く光る蛍光灯があった。俺はベッドから半身を起こすと、辺りを見渡した。
まるで独房のような、ドアも窓もない白い部屋。そこにはめぼしい家具もなく、せいぜい部屋の隅に便器があるだけだった。
そして、俺にはここに来る前までの記憶がない。
「『おはようございます。今日も一日、規則正しく健康に過ごしましょう』」
天井のスピーカーから無機質な声が聞こえた。それと同時に、小鳥の鳴き声と川のせせらぎが流れてきた。
リラックスさせたいのか、それともこの殺風景な空間でなんとかして朝を演出したいのか。
「『身体・認知機能の低下を防止するために、軽い運動をしましょう』」
俺はその声に言われるがまま、軽く運動をした。
すると、壁と床のわずかな隙間から食事の載ったトレーが俺の部屋に投げ込まれた。
食べろ、ということだろうか。
俺ははじめ躊躇したが、結局空腹に負けて、その味の薄いマッケンチーズとミートローフを平らげた。やがて訪れる多幸感とそれに次ぐ虚しさ、そして俺はこの質問に行き着いた。
「ここは……、どこなんだ?」
俺は白い壁に向かってたずねた。
「『あなたがいらっしゃるのはΑ31345号室です』」
「そういうことじゃない。ここは一体どこなんだ?」
何かの更生施設、あるいは監獄か。
しかし、その声は俺の期待に反して、妙なことを言った。
「『ここはただの人間の居住区です。人々は皆、生まれたときからここに住むことになっています』」
不穏な答えに俺は首を傾げた。
「……どういうことだ? 大体、お前は誰なんだ?」
「『私はこの施設の中枢AIです。私の役割は人々を
俺は愕然とした。
「さっきから疑問に思っていたが、なぜ扉がない? どうして俺たちは外に出られないんだ?」
「『出る必要がないからです。あなた方はここにいる限り必要な食料と十分な運動量を確保できます』」
声がそう言うと、壁の一部が開いてトレッドミルが出現した。
「いや、俺は外に出たいんだ」
「『それはできかねます』」
声はそう言ったきり黙ってしまった。
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