第19話 なのか?


 『九尾の狐』に案内されて来たのは、巨大な木の根元だった。


 いつの間にか彼の手には大きな包丁が握られ、何かを捌くということだけは判る。


「・・・何をするつもりだい?まさか、私たち2人を始末して、その両方を食そうだなんて、考えてないだろうね?」


「まさか。人間や妖怪なんて食べても美味しくないですよ。ドロドロした血の味がして・・・まぁ、必要に駆られれば食べますけど」


 必要にはあまりなってほしくない。


「そんなものじゃないですよ。今日のご飯は、これ」


 包丁で『それ』を指し示す。


 それは、数時間前、『猩々』の1体が殺した『猪笹王』。


「人間はこれを食べて、すたみなとやらを蓄えるのでしょう?」


 つまるところ、彼は猪笹王をジビエと見ているようだ。


 言わんとすることは判る。


 確かに、猪笹王とて猪だろう。


 それは間違いない。


 しかし、こいつは妖怪であることを前提として忘れてはいけない。


 気付けば、『九尾の狐』は早くも猪笹王の解体を始めている。


 ここで疑問を呈そう。


 果たして、今日の晩御飯はジビエと呼んでいいのか?


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「・・・よし、できた。食べてみてください」


 猪笹王の肉が刺さった串を差し出して、『九尾の狐』。


 こんがりと黄土色の焼き色が付き、表面で脂がジュウジュウ音を立てて弾けている。


 こんなの、美味しくないはずがない。


「待った、私が先に食べよう」


 私を手で牽制して、『二口女』が串を受け取る。


 そうして、少しそれをじっと見つめた後、意を決したように目を閉じて齧り付いた。


 しばらく咀嚼し、やがて受け取るように促す。


 ややあって、私も食べてみた。


「・・・美味しい」


 口の中に広がる、クセがなくあっさりとした味。


 それに、かけられている『九尾の狐』特製の調味料。


 全てにおいて完璧。


 あとはアツアツの白米さえあれば・・・


「主様!言われた通り持ってきましたよ!」


 なんて考えていたら少年が数個の小さな俵を手にやってきた。


 中身は出来立てほやほやの、純白のおにぎり。


 この狐には本当に抜かりがない。


 なんだか少し、悔しいくらいだ。


 ご馳走様でした♬

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