第18話 これが私の戦い方


 朔良たちが洞窟から出て行ったのが見えると、少し安心したような気持になった。


 実際のところ、まだ猩々の頭を倒しきれてないので、完全に安心することは出来ないが。


「さて・・・ここからが本番ですね」


 振り下ろされた猩々の腕を後ろに跳んで避けると、その手を思いきり踏みつけた。


 猩々は腕を動かそうとするが、何故かビクともしない。


「すみませんね・・・これが私の戦い方なので」


 みるみる内に『九尾の狐』の姿が変わっていく。


 口が大きく裂け、歯が鋭くなり、鼻は長く、頭部には大きな耳。


 いつの間にか四つん這いの格好になり、体長も大きく、大きく・・・


 そして、完全に変化が終わった頃、大きく咆哮を上げた。


「・・・ッ!」


 猩々は驚き、顔を少し引くも、負けじと大声を返す。


 洞窟内は、2体の鳴き声に包まれた。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 洞窟から少し離れた場所にて。


「あの・・・!もう大丈夫ですから・・・!」


「ダメ!こんな痛々しい傷、放っておくわけにいかないじゃないか!」


 小川のもとに座り込み、『二口女』は私の体についた傷を治療していた。


 私の体には、縄で縛られたときや、運ばれるとき爪が食い込んでできた傷で一杯だった。


 そのほとんど、いや、全てが擦り傷や浅い切り傷程度のものだったが、『二口女』は見ていられなかったらしい。


 傷口を小川の水で洗い、近くに生えていた薬草を使って塗り薬を拵え、私の体に塗り込んでいった。


 しかし、その薬の沁みるのなんの!


 ほとんど感じていなかった痛みが、その薬のせいで際立ち、私は思わず顔をしかめる。


「沁みるのは判るけど、我慢しなさい。良薬は口に苦しって言うでしょ!」


「そうですけど!」


 もうこの状況が早く終わることを祈るばかりだった。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「そう言えば、今晩は何も食べていなかったね・・・」


 自身の腹部をさすりながら、『二口女』。


 お腹が空いたらしい。


「そうですね・・・でも、この辺りに食べるものなんて、果物くらいしか・・・」


「そうだよねぇ。果物なんて、いくら食べても腹に溜まらないし・・・」


「食べるもの、ありますよ」


 その声に目を向けると、『九尾の狐』がいつの間にかそこにいた。


 その服は、土や泥、そして少し赤いもので汚れている。


「何時からそこにいたんだい?」


「ついさっきです。話を戻しますけど、食べるもの、ありますよ?」


「何だい?まさか猩々を食べるとか言わないだろうね?」


「まさか。奴らの肉は硬くて美味しくないですよ」


 食べたことがあるのか。


「そんなものより、もっといいものがありますよ」


 ついて来てください、と促し、森の中に消えてゆく。


 私と『二口女』は首を傾げながら、彼の後を追った。

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