第16話 天逆毎


 『九尾の狐』は刀を鞘から抜き、猩々たちを切ってかかる。


 男はと言うと、弓を引き絞って放ち、また引き絞っては放ち・・・


 延々と繰り返している。


 矢の殆どは猩々の脳天に突き刺さり、致命傷を負わせられなかったものには、多数の矢が刺さり、絶命させていく。


「・・・キリがないな!」


「仕方ないでしょう。これほどまで多いとは思いませんでしたので」


 切って捨てて、切って捨ててを繰り返しながら、『九尾の狐』が返す。


 やがて矢が尽きた男は弓を捨て、腰に掛けてある刀を抜く。


「では、私は前方を」


「俺は後ろだな」


 背中合わせに立ち、互いに構える。


 猩々たちも、その異様な雰囲気を感じ、距離を取って牙を剝き、威嚇してくる。


「待て、あんたたち、何するんだい!?」


 やがて聞こえてきた声に、2人の間に間抜けな空気が流れる。


「そう言えば居ましたねぇ・・・」


「すっかり忘れてた・・・」


 顔を向けると、『二口女』が猩々2体に担がれ、今にも何処かに連れていかれそうになっている。


「仕方ない、10分に変更で」


「異議なし」


 2人は同時に猩々に飛び掛かった。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 最後に残った猩々の首を切り、『九尾の狐』は一息ついた。


「やっと終わりましたよ・・・」


「こっちもな」


 そう言う男の担ぐ刀の先には、まだ猩々の首が1つ刺さっている。


「悪趣味なので早急に処分してください」


「はいはい」


 首をそこから外すと、男は遠くに放り投げる。


「で、大丈夫ですか?」


 少し離れたところに座っている『二口女』はというと、


「大丈夫なわけ、ないじゃないか。あいつら私を担いでくるし、持ち方雑だし、爪は食い込んでくるし、もうボロボロだよ。それにあんたたちもなんで助けるのは最後なんだい?人が危険な目に遭ってるんだから、1番最初に助けなさい!それに!」


 大声かつ早口で捲し立て、男を指さし、


「あんたは誰なんだい!?」


「あぁ、まだ名乗ってなかったか・・・天逆毎あまのざこだ。覚えておけ」


「あ、天逆毎・・・?」


 男は近くの小川で自身の刀を洗いつつ、


「もうこれで俺の仕事は終わったわけだが・・・いいのか?猩々の頭は倒してないし、それに、誰か捕まっているのだろう?」


「「あ・・・」」


 間抜けな声が、2人の喉から出る。


「忘れてた・・・」


 『二口女』は続けて呟いた。

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