第11話 猿
ハッとして顔を向けると、そこには黒く、大きな影が佇んでいた。
それは見上げるほど大きく、影はこちらを見下ろしている。
正体は判らないものの、ただ唯一、さっきまで私たちを襲っていた猪笹王とは全くの別物であることは理解できた。
「だ、誰・・・?」
唖然とする私の手を掴むと、少年は洞窟の奥へと逃げだした。
「今度は何!?」
私の叫びが、洞窟内に響く。
「知らん!」
少年の返事が返ってくる。
少年も少年で相当焦っているようで、その声は先ほどまでの落ち着きを孕んでいない。
奥へ奥へと曲がり、くねり伸びる1本道を、少年に先導されながら必死に走る。
後ろを確認することなく、逃げて、逃げて、足音がようやく遠くなったか、というところで、私は息が詰まる感覚とともに足を止めた。
いや、止めさせられたとでも言うべきか。
後方の影から、腕が伸び、大きな手で私の胴体を掴んでいた。
「え、何!?離して!」
身を捩って必死に抵抗するも甲斐なく、私は無理やり少年から引き離され、影に連れ去られてしまった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
影は洞窟から出ると、片手で器用に、岩肌を伝って崖の上へと上った。
そこまで光があまり届かず、影の正体を見ることは出来なかったが、月明かりに照らされ、影の顔を垣間見ることができた。
怒っているかのように真っ赤で、その顔はまるで・・・
「猿・・・」
私は思わずポツリと言う。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「おや、これは」
『九尾の狐』は目の前に横たわる獣を見て、駆け寄る。
「猪笹王?もう死んでいるが・・・」
「本当だ。何だろうね?」
『二口女』も覗き込んで言う。
「頭頂部を一撃・・・心当たりは?」
「無い。まぁ、どこかの山の主の仕業だろうね」
腕を組み、『九尾の狐』は唸る。
「何事も起きてなければよいが・・・」
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