第9話 猪笹王2


 『二口女』宅(跡)に立ち入った『九尾の狐』は、その惨状を見て眉をひそめる。


「ここで何が・・・?」


 爆発でも起こったかのように壁、屋根、家具諸共粉々になっている。


 しかし、この世界に爆発物は基本、存在しない。


 それに、『二口女』、護衛の家臣、そしてサクラの姿が見えない。


「何か良くないことが起きてないといいが・・・」


 3人を探すべく、『九尾の狐』は崖下へ降りて行った。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 向かってくる猪笹王に向かって、『二口女』は猟銃で応戦し続ける。


 しかし、命中はすれど、大した効もなすことはない。


 そうこうしているうちに、とうとう弾が切れてしまった。


「ヤバいや・・・どうしよう・・・」


 引き金を引いてもカチ、カチと空しい音が聞こえるだけ。


 『二口女』は成す術もなく、猪笹王の突進を喰らい、後方へ飛翔。


 地面を転がり、大木の麓で止まった。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「・・・!来る」


 突然、少年がハッとして言った。


 傍に多数転がっていた石を積んで遊んでいた朔良は、その声に驚いて石を崩してしまう。


「来るって・・・何が?」


「判らない。ただ、相当強烈な・・・」


 言って、口を紡ぐ。


「・・・何?」


「静かに!喋るな!」


 声を潜めて言う。


 言われた通り黙ると、洞窟の外からガサガサと、草本を踏みつけ歩く音が聞こえてきた。


 何かを探しているようで、時折立ち止まり、そうしてまた動き出す。


 洞窟周辺をウロウロしているようで、足音は近づいたり、遠のいたりしている。


 しかし、中々洞窟に入ってこようとはしない。


 それもそのはず、洞窟の入り口は少年の術で隠されていた。


 実際目を凝らせば見えるのだが、一瞥しただけではそこに岩壁に穴があるとは判らない。


「君ってさ、何者?」


 もう何度目にもなる質問を投げる。


「自分は・・・主様の使い、としか言えないな」


 少年は肩をすくめた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る