第8話 猪笹王


 壁を突き破って飛び込んできたのは、巨大な猪だった。


 畳に着地すると、鼻息荒くこちらを睨んでくる。


「な、何なの?こいつ・・・」


「猪笹王。さっきも言われただろう?危ないから・・・」


「逃げるよ!」


 少年の言葉を遮って、『二口女』は私たちの手を取ると、崖下に向かって駆け出した。


 階段を勢いよく、数段飛ばしで駆け下りていく。


 猪笹王もそれに続く。


「一体、何をしたんですか!?」


 手を引かれながら少年は大声で聞いた。


「猪肉を狩ろうとして撃ったら、偶然猪笹王に命中しちゃって!怒らせちゃった!」


 何が『ちゃった』だ!


 しでかした事柄が大きすぎる。


 そうこうしつつも最下部まで辿り着いたようだ。


 青々と木々が生い茂り、その間を小川が流れている。


「山の方に逃げて!少年、サクラの警護、お願いね!」


 言って猟銃を猪笹王の方に向ける。


 山中に数回、銃声が木霊した。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「あれ、何なの・・・?」


 山の方へ進む中、洞窟に逃げ込んだ2人は、そこに腰を下ろし、一時の憩いとしていた。


猪笹王いのささおう。聞いてなかったのか?多分、『二口女』さんが入った山の主だな」


「はぇ・・・」


 とすると、彼女はとんでもない相手に喧嘩を売ったことになる。


「まぁ、猟銃で対抗できるような相手ではない。あのままであれば、ただでは済まないな」


 少年は落ち着いて言う。


「まぁ、我々死ぬことはないから、大けがを負うくらいで済むとは思うが・・・一応、主にも助けを求めておくとするか」


 少年は言って目を閉じた。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ちょうどその頃。


「・・・これは・・・?」


 『九尾の狐』は、大破した『二口女』の家の前に来ていた。

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