第4話 眠れない夜


 初夜なんて言ってしまうと厳かなものだが、実際は私がこの世界に迷い込んで初めて迎える夜のことである。


 さっきまでうどんを食べていたところへ布団が2つ敷かれ、『二口女』は私に入り口から遠い方を使うよう促す。


「じゃあ、明日から神界に行く手筈を整えるから、そのつもりでいてくれよ。おやすみ」


 『二口女』は布団に横になると、すぐに寝息をたて始めた。


 私はと言うと、中々眠ることができず、暫く目を瞑っていたが、それもできなくなり、天井のシミを暗闇に慣れた目でぼんやりと眺めていた。


 隣で『二口女』が、


「うぅ・・・」


とか呻きながら寝返りを打つ。


 顔だけ向けてみると、『二口女』は体をこちらに向けて寝息をたてていた。


 私もそろそろ眠気を感じてきたのか、あくびを1つしたところで。


 隣の『二口女』はからおかしな音が聞こえてきた。


 ペチャペチャ、クチャクチャ、まるで、誰かが何かを食べているかのような音。


 再び首だけ動かして確認すると、『二口女』の横たわった体の向こう、囲炉裏のところで、何かがうごめいているのがぼんやりと見えた。


 何だろうか不思議に思ったが、特に気に留めず、瞼を閉じると、その音が止み、やがてズルズルと畳を這いずり回る音が。


 それは私のそばまで来て、止まった。


 正体を知りたいという好奇心はあったが、何故か見てしまったら負けだという思いもあるので、音が聞こえてきた反対側、要は『二口女』に背中を向けるように体を動かす。


 その時、少しだけ見えてしまった。


 這いずり回っていたそれは、少し赤い色をしていて、細く長く伸びていて、そして、『二口女』の方から続いていた。


 それは私の布団を調べるように動き回り、やがて私に触れ・・・


 この時には私は、気持ちの悪さと恐怖で意識が飛びそうになっていた。


 あんなに普通の姿をしている『二口女』にこんな一面があったなんて・・・


 それは布団の中まで潜り込んできて、私の足や手、身体を舐っていき、


「・・・クヒッ」


 その笑い声と共に頬に触れた瞬間、私の記憶は途絶えている。


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