第2話 見聞に知識を重ねて


「何か食べるかい?何でも食べたいものを言ってみな」


 囲炉裏の前に私を座らせ、鍋と魚や米などの食料を用意しつつ女性は聞く。


「えっと・・・」


「ん?何だい?」


 作業の手を止めて聞く。


「お名前は・・・?」


 聞くと、女性は思い切り噴き出して、抱腹絶倒した。


「面白いことを聞くね。まぁ、『九尾の狐』が言っていたとは思うが、名前なんて持ち合わせていないんだよ。敢えて名乗るとするなら・・・うん、『二口女』とでもよんでくれ」


 そう言って女性、もとい、『二口女』はケタケタと笑う。


「で、何が食べたい?自分で言うのも何だが、口が2つある分、食べ物にはうるさいよ、私は」


 そう言って私の返事を待つかのように、じっと見つめてくる。


「・・・今ある食材で、何が作れますか?」


「何でもできるよ。洋食は難しいかもしれないが・・・大概のものなら」


 私は散々悩む。


 悩みに悩んで、出した答えは無難にも、


「うどんでお願いします」


「うどんだね。すぐ作るからね」


 言って、小麦を用意し、色々加えて捏ね始める。


 麵から作るらしい。


「サクラは、何処から来たんだい?」


 視線を落とし、手を動かしながら『二口女』は聞く。


「日本です。地方の方ですけど・・・」


「具体的には?」


 私は住んでいた住所を伝える。


「・・・聞いたことない町だね。そこから来たのかい?」


「はい、その地域の墓地に行こうとお寺から小道に入って、抜けたらここに居ました」


 ハタと、『二口女』が手を止める。


「まさか、聖域を犯したのかい?」


「はい?」


 質問の意味が判らず聞き返すと、


「ここと、あんたが居た世界との時間は同じだから、サクラがその道を通った時間も夕時だったってことだ。つまり、『黄昏時』。誰の時間でもない時間に聖域なんて入ったら・・・」


 何やらブツブツと言っていたが、朔良がどうしたか聞こうとすると、


「神界に行くよ。サクラは神隠しに遭っているかもしれない。直接神々に許しを請わないと。そのためには・・・嗚呼、面倒くさい」


 言ってうどん作りを再開する。


「明日にでも準備を始めるよ。夜は危ないからね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る