突撃
バン! バン!
体が、驚いてしまう程の、凄まじい轟音の音が戦場に響き渡る。
「なんだ、このバンって音は!?」
「今までで、こんな連続して凄まじい音は、聞いたことがないです」
俺とロイは、耳を塞いでしまうほどの大きな音に驚いた。
「これが、火縄銃です。相手のリザードマンを見てください」
長秀が指をさした方向を見てみる。
「な、なにが起こっている」
頑丈な鱗を持つので知られているリザードマン。そのリザードマンが、次々と地面に倒れて行く。
リザードマンの鱗をもったとしても、火縄銃の攻撃を防げなかったのか。
「鉄砲隊! 次弾装填! 弓隊前へ!」
どうやら、火縄銃は連続して撃てる物ではないらしい。
「ロイ。戦場の常識が変わるぞ」
「はい。勇者と魔王の戦争に火縄銃があったら、戦争が数年早く終わっていたかもしれません」
鉄砲隊という部隊は、魔術が使えない、ゴブリンやオークたちに持たせたら、魔術師並みの戦力増強に繋がるぞ。
魔王領に帰るまでに、この火縄銃の製造方法を知らないと。
「織田信長、なんて物を量産していたのだ」
俺は、信長の家紋でもある五つ木瓜が描かれた旗に目をやる。
「弓隊! 火矢を放て!」
混乱しているリザードマンの軍団へ、追い打ちをかけるかのように火矢が放たれた。放たれた火矢は、リザードマンの足元にある枯草へ引火する。
リザードマンの軍団は、瞬く間に火の海にのまれていった。
「接近戦に持ち込めー!」
火の海の中から、リザードマンの司令官だと思われる男の怒声が聞こえた。このリザードマンの軍団は、武闘派の兄レイに従うリザードマンだ。これぐらいでは、やられないタフさを持っている。
「もう一度、突撃を仕掛けて来る」
俺の予想通り、リザードマンの軍団は、火の海を切り抜けて、織田軍の本陣に向けて突撃をする。
「リン様。敵が来ます」
「今度は、接近戦になるな」
火縄銃の威力を見る限り、しばらくは使えないだろう。リザードマンとの接近戦だ。俺とロイは、刀を抜いて、臨戦態勢をとろうとした。
「鉄砲隊、構え!」
しかし、次に聞こえたのは、耳を疑う言葉だった。
「もう、発射できるだと?」
まだ、火縄銃を撃ってから、数分しか経ってないぞ。魔法使いならば、あの威力の魔法を使えば、も数分は魔力を練らなければならないはずだ。もしかして、火縄銃は、魔法をも上回る性能を持っているというのか。
「おおおお!」
リザードマンは、その事実を知らずに再び突撃をしてくる。
「鉄砲隊、放て!」
再び、火縄銃の銃声が鳴り響く。
リザードマンは、次々と地面に倒れていった。
「魔王信長……」
戦場の常識を書き換える戦い方は、まさに魔王の名にふさわしい。俺は、信長が魔王だと思えるようになった。
「リン様。リザードマンの動きが止まりました」
「あぁ。リザードマンは、前に詰めることができなくなった」
リザードマンは、自分達の予想を超える早さで、発射される火縄銃を警戒しているようだ。
ぶおーん。ぶおーん。
再びホラ貝の音が聞こえる。
「伝令! 右翼にいる勝家様と可成様。左翼の利家様とリン様に突撃合図がでました」
「行くか。長秀も来るのか?」
「私は、文官の人間。戦闘は、からっきしダメです。信長様の所へ行きます」
長秀は、そう言うと馬に乗り、信長の元へ向かった。
「よっと」
後ろから、桃の声が聞こえた。
「敵の指揮官の場所がわかったよ」
「どこにいた?」
俺は、振り返り桃に聞く。
「後方にいたわね。周りは、トカゲの頭を持つ人達だったけど。その人だけ人間みたいだったわ。変な感じ」
「それは、魔族という種族だからだ。魔族は、人間みたいな容姿をしている」
やはり、魔族がリザードマンを率いていたか。てことは、貴族の一人だろう。
「リン、利家がいるわよ」
カグヤに言われ、前を向くと、左翼の軍の前に、利家が馬に乗りリザードマンがいる方向を見ていた。
利家は、槍をリザードマンの方に向ける。
「突撃―!」
「おおおおお!」
利家の合図と共に、左翼の軍がリザードマンに向かって突撃を始める。
「みんな。行くぞ」
「はい」
俺達も馬に乗り、利家の後に続いた。
「おおおおお!」
左翼の軍が動き出した、すぐ後に右翼の軍も突撃を始める。
「リザードマンは、これで挟まれる形になるな」
左右から敵に攻撃をされる。これは、自分達が戦う方向の後ろにも、警戒をしないといけないってことだ。それだけでも、士気の低下は避けられない。
「リン様! 矢が来ます!」
「構うな! 真っ直ぐ進め!」
リザードマンは、二度の突撃が失敗に終わり、戦力と士気が低下している。ここは、勢いに任しての突撃が一番。
「ぐあ!」
「うわ!」
一緒に突撃している兵の中に、矢で倒れる者が出始める。
「一番槍は、この前田利家になるぞー!」
前を馬で走る利家は、槍でリザードマンを串刺しにする。
「おおおお!」
勢いに乗った、利家と俺の軍は、リザードマンと混戦になる。
「カグヤ! 桃! リザードマンは、鱗がある部位は硬い! 鱗がないとこを狙え!」
「了解よ」
「わかったわ!」
元々、戦い慣れしている二人だ。一つのアドバイスで、リザードマンの弱点を攻撃し始めた。
「リン様、奥の方で
ロイの言った方向を見てみると、奥に砂煙が見えた。
「右翼の軍も突撃したみたいだな」
斬りかかってくるリザードマンを斬り倒す。
「桃」
「よっと、なに?」
「敵の総大将が、いる方角は、どっちだ?」
「あっちよ」
「ロイ、カグヤ。敵の総大将に近づいて行くぞ。援護を頼む」
「りょうかいよ」
桃が指さした方向に進んで行く。
「見えて来たな」
馬に乗り、赤髪をした一人の人物が見えた。
「リン様。魔物達に囲まれて平然としている人の姿をした者、魔族で間違いありません」
「ロイ、見たことあるか?」
「いえ、一度も」
ロイと俺が、見覚えないと言うことは、辺境の貴族。一番低い階級の男爵辺りか。
「リン、あれが敵大将か?」
「そうなるなって、利家!?」
いつの間に、ついて来たのか。
「なんか、面白そうな気配を感じたからな。ついて来たぞ」
初めて会った時も、気づけば近くにいて、話しかけて来たな。抜け目がないって、言葉が一番当てはまる人物かもしれない。
「あそこの敵大将を拘束できれば、今回の狙いが、わかるはずだ」
「確かに、俺も同意見だ。目的がわかれば、即行動だ」
利家は、そう言うと大きく息を吸った。
「お前ら! あそこにいるのは、敵総大将になるぞ! 見事、生け捕りにしたら、今回の報酬の十倍以上を約束する! さらに、信長様からの恩賞も確実にでるぞ!」
「信長様からの恩賞……」
「十倍の報酬……」
周りにいる男の雰囲気が変わった。利家、報酬で味方の士気をさらにあげやがった。
「どんどん、周りの人も雰囲気変わっていくんだけど……私、怖いかも」
桃は、欲望をむき出しになった味方を見て、引いている。
「戦に参加している者は、生活のために戦っているからな。こう焚きつければ、戦闘マシンになるのさ」
利家は、そう言うと敵総大将がいる方向に、槍を向ける。
「もう一度、言う生け捕りだ! 生け捕りにしたら、十年以上の生活は安泰だ! さらに、総大将の側近は、生死問わず、報酬は五倍とする! 突撃―!」
「おおおお!」
利家達は、敵総大将に向けて、突撃を始める。
「男爵様に近づけるな!」
奥から、艇の司令官らしき声が聞こえた。やはり、奥にいる魔族は男爵か。貴族の中でも一番低い階級だから、詳しい情報は、持っていないだろう。だが、一ヶ月以上、魔王領の情報がない俺よりは知っているはずだ。
「邪魔だー!」
利家が、槍で大きく払うとリザードマンは吹き飛んだ。
「利家、剛腕だな」
「これぐらい、強くないと信長様に認められないからな」
俺は、利家の信長に対する忠誠心の高さを感じた。
「邪魔だー! どけー!」
織田軍の兵達も、敵総大将に向かって、どんどん斬り進んで行く。
「この戦、勝負あったな」
もはや、リザードマンは陣形が総崩れとなっている。二度の火縄銃による攻撃に、左右からの挟撃をされた時点で、リザードマンの士気は底をつきかけていた。
「これが、最後の隊列だ!」
利家は、そう言いながら、リザードマンを槍で突き上げる。
目の前には、男爵と呼ばれる男と側近だと思われるリザードマンが数体いた。
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