魔王軍対織田軍
「よく、ついて来たな」
信長がいる本陣の中に入ると。可成と勝家が座っていた。
「状況は、どうなっている?」
俺は、勝家の隣に座り、状況を勝家に聞いた。
「リンが言っていた魔法陣は、俺が着く数時間前には消えていたそうだ」
「なるほど。敵の数は?」
「俺が聞いた報告だと、千人規模の軍勢だ」
「軍勢?」
いるのは、魔物のはずだ。なぜ、軍勢だと言えるのだ?
「あぁ、俺も確認してきたが、あの妖怪の集団、旗をかかげていた」
「旗?」
「間違いない。可成も見ただろう?」
「うむ、確認した」
「確かに、あれは旗だ」
てことは、転移してきた魔物は、魔王領にいるはずの軍だ。
「旗には、なんて書いてあった?」
「旗には、トカゲの絵が描いてあったな」
トカゲの絵、てことは、あそこにいるのはリザードマンか。
「リン、そこまで聞くということは、なにか心当たりがあるな?」
「はい。私もかつて、勇者と魔王の戦争に参加していました」
「ふむ。続きを」
「戦場で似たような旗を見たことがあります。確か、名前はリザードマン」
「リザードマンか。特徴は?」
「鱗が硬く、矢は通さないと思います」
「どうやって倒せる?」
「のど、胸、腹の部位は柔らかいです。そこが狙うのが得策かと」
「そうなると、槍隊が重要だな」
可成も会話に参加する。
「一つ試したい物がある」
信長は、そう言うと近くにいた小姓に何かを言った。小姓は、頷くと本陣を出る。
「勇者と魔王の戦争って言っていたな」
「はい」
「てことは、浮野で陣取っているやつらは、魔物ってやつなのか?」
「そうです」
信長は、それを聞くと目を子供のように輝かせた。
「うむ、そうか」
信長は、冷静に受け答えをしている。しかし、目の輝きを見るからに、実際は魔物に興味が、めちゃくちゃあるのだろう。
「兵は、どれくらい集まる?」
「まだ、稲刈りが終わっていません。普段より、兵が少ないですが、城にいる常備兵も含めると二千程かと」
「我らが、二千。魔物が千か」
「数では勝てていますな」
勝家は、髭をなでながら笑みを浮かべる。
「勝家、油断してはならぬ。二倍ほどある数の差は、簡単に覆される。我が、
「桶狭間?」
「そうか、リンとロイは、まだいなかったな。何年か前に、東にある
「そんな戦いが、あったのか」
「あぁ、相手方の今川軍は、二万五千を超える大軍に対して、我ら織田軍は二千」
「十倍以上じゃないか」
「そうだ。この時、我らは情報網を張り巡らせて、今川軍の本陣を見つけ出し、奇襲し、勝利を手に入れたのだ」
「俺も、その戦いに参加してみたかったよ」
そんな、すごい逆転劇が起きていたのだな。
「昔話は、ここまでだ。現状の確認に戻るぞ」
信長は、そう言うと地図を広げた。
「浮野っていう、土地は平らな地形をしている。我らがいるのは、浮野の北にある小高い丘だ」
「魔物達は、この平らな地形にいるってことか」
「そうだ」
信長が、そう言った所で、信長の小姓が本陣の中に戻ってくる。手には見慣れない、筒状の物を持っている。あれは、なんだ?
「信長様、持って来ました」
「数はどれくらいある?」
「三百丁ほど」
「十分だ」
「信長様これは?」
「
「火縄銃?」
「かかか! リン知らないのかよ。これ、異国から来た物だぞ」
利家は、笑って言う。
「勇者と魔王の戦争には、なかったぞ」
「そうなのか?」
数自体が、少ないのか。使う前に、戦争が終わったのか、どっちかだろう。
「実際に見せてやりたいが、戦場で見てもらうのがいいだろう」
「わかった」
信長は、そう言うと軍議を再開し、布陣の説明などをした。
信長は、信長自身が率いる中央軍。右翼の軍は、勝家と可成。左翼は、利家と俺が、布陣をするように命令をした。
「あれは」
信長の指示通りに、布陣をとると、リザードマンの軍が姿を見せた。
「リン様。あの、トカゲの絵に赤色の旗は、間違いありません」
「あぁ、あれは長男のレイに従えているリザードマン達だ」
後継者争いが起きた時、どこの派閥かわかりやすくするために、魔族たちが、派閥によって色分けを始めた。長男のレイは、赤色。次男のアルは黄色。俺は、青色だった。そして、目の前に陣形を構えているのは。赤色の旗。長男のレイを支持する証だ。
「リン様、我らを迎えに来たのでしょうか?」
「迎えにくるなら、こんな軍勢を率いて来ないだろう。狙いは、おそらく別にある」
「ここにいた。お待たせー」
女性の声が聞こえたので、振り向いてみると、熱田神宮で禊を受けている桃がいた。
「来てくれたか」
「急に呼ぶなんて、人使い荒いねー。で、あそこにいる軍はどこの軍団? 初めて見るんだけど」
「異国にいるリザードマンって呼ばれる魔物だ」
「へぇー、あれが魔物って言う生き物か。妖怪と違って、なんか怖いね」
「そうか?」
「うん。私は、なにをすればいいの?」
「これから、合戦が始まる。桃は、敵の軍を率いている将を見つけられるか?」
「お安い御用ー。じゃあ、ちゃちゃっと行って来るね」
桃は、そう言うと姿を消した。
かぁーん。かぁーん。
「どらの音だ」
桃が姿を消した、すぐ後に、どらの音が聞こえた。魔王軍で使われる、戦が始まる合図だ。
ぶぉーん。ぶぉーん。
「この音は」
「日本で使われる、ホラ貝って物です。主に合戦や儀式などで、使われます」
そう言って、俺の隣に現れたのは、丹羽長秀だった。
「長秀、仕事は大丈夫なのか?」
「政秀に言われた所は、終わらせて来ました。信長様の所に行ったところ、『リンに日本での合戦を教えてやれ』と言われまして、ここに来た次第です」
長秀の顔は、戦場にいても穏やかな顔をしている。その冷静さを保つ精神を見習いたいものだ。
「えい、えい、おー!」
織田軍から、大きなかけ声が聞こえた。
「戦が、始まる前の激だな」
「そうです」
魔王軍対織田軍の合戦で、一番初めに動き出したのは、魔王軍であった。
「相手は、最初中央突破してくるつもりだな」
リザードマンの軍は、織田軍の右翼と左翼を気にせず、信長が率いている中央軍に突撃をしかけた。
対する織田軍は、動き出さない。
「作戦通りだ」
「まずは、敵を射程範囲内までひきつける。火縄銃を使う際に、大事なことです」
「もう、射程範囲なのではないか?」
「はい。しかし、火縄銃でより多くの敵を巻き込むためには、もう少しひきつける必要があります。目安としては、射程範囲の半分にまで、敵が入ってきたら」
魔王軍は、火縄銃のことを知らない。おそらく、魔王軍にとって初めて目にし、体験する武器だ。
「射程範囲の半分に入りました」
「撃てぇ!」
長秀の声と同時に、指揮している隊長の男達が同時に発射の合図を出した。
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