第三章

是非に及ばず

「きゅ、急報! 尾張国内の浮野にて、未確認の妖怪が出現! 暴れ回っております」


 斎藤家に侵攻まで残り一ヶ月切った。ある日、戦略会議をしていると、尾張国内で、妖怪が暴れている報告が入った。


「数は、どれくらいだ?」


 信長は、詳細の情報を聞き出そうとする。


「数は、数十体ほどです」


「信長様、森可成もりよしなりが、百人の兵を率いて討伐に向かいます」


 可成は、前に出て討伐に向かうと進言する。


「で、伝令!」


「今度は、なんだ!」


 勝家は、言葉を荒げる。


「浮野に現れた妖怪が増えています。今は、百体以上の数が確認されていること!」


「妖怪が増えている? 暴力的な妖怪が現れることがあっても、増えるのは聞いたことない」


 丹羽長秀が、疑問を口にする。


「伝令、他に情報はあるか?」


 妖怪が増えたという情報だけでは、俺も判断ができない。なにか、情報がほしい。


「上空に見たことのない文字と、円が浮かび上がっていると報告が上がっています」


「リン様、それって」


 ロイもなにか、わかったようで俺の元に聞き、耳元でささやく。


「あぁ、魔法陣だ」


 伝令の目撃情報と魔法陣の特徴が一致する。その情報が正しければ、現れているのは、妖怪ではなく魔物だ。


「リン、なにか知っているようだな」


 信長が、俺の方を見る。


「はい、伝令の報告を聞く限り、上空に現れているのは魔法陣だと思います」


「魔法陣?」


「日本以外で、広く使われている魔法の一つです」


「魔法、妖術ってことか」


「はい、その解釈でいいかと」


「信長様、リン殿の話が正しければ、浮野で暴れている妖怪達は、外から来た者になります」


「是非に及ばず」


 信長は、そう呟くと立ち上がる。


「出陣準備だ! 出陣の準備をできた者から、浮野に集合せよ!」


 信長は、刀を持ち部屋を出ようとする。


「信長様、どこへ!?」


「わしは、一足先に浮野へ行く。鎧と兜は、小姓に持ってこさせる!」


 信長は、そう言うと、部屋を出た。


 部屋の中は、沈黙に包まれる。


「しゅ、出陣だ!」


 沈黙の口火を切ったのは、利家だった。


「俺も、装備は小姓に持ってこさせる!」


「わしもだ! もたもたできるか!」


 利家と勝家、可成は、信長の後を追うように部屋を出た。


「わしは、出来る限り兵を集めて、浮野に向かわせる。長秀、清洲城と近隣にある支城から、兵を浮野に向かわせるのじゃ!」


「わかりました!」


 政秀と長秀は、話し合いながら部屋を出た。


「リン様」


「あぁ、俺達も浮野に向かうぞ」


 ロイと俺も部屋を出て、馬小屋に向かう。


「リ、リン! なにが、あったんだ!? 利家達が、とんでもない形相で馬に乗って出て行った! それに、この城内の騒がしさは、なんだ!?」


 汎秀が、驚いた様子で話しかけてくる。


「敵襲だ。ひろ、ちょうどいい時に来た。熱田神宮に行って、桃を呼んでこい」


「て、敵襲!? わ、わかった。すぐ行って来る!」


 汎秀は、そう言うと、走って馬小屋に向かった。


 馬小屋に辿り着くと、カグヤが三頭の馬を引き連れて、俺の前に現れる。


「カグヤ、敵襲だ」


「なるほどね。この騒がしさは、それが原因だったのね」


「それは、俺達の馬か?」


「そうよ。騒ぎを聞いて、馬小屋に入れば来ると思って、待っていたの」


「馬を探す手間が省けた。俺達も急いで、浮野に向かうぞ!」


 俺とロイ、カグヤは、馬に乗り清洲城を出た。



 浮野に近づくと、兵達が慌ただしく走りながら、浮野に向かっているのが確認できた。


「リン様、この気配」


「間違いない。浮野にいるのは、魔物で間違いない。しかも、この気配、魔族もいるぞ」


 これは、ただの魔法じゃない。俺とロイが、ここに来たのと同じ転送魔法だ。


 さらに、進んで行くと、丘上に陣が張っているのを確認できた。


「今村城の兵、一時間ほどで、辿り着きます」


「白山城の兵、到着しました!」


 陣の近くでは、利家が兵の報告を聞いていた。


「利家」


「おぉ! リンとロイも来たか!」


「今は、どんな状況なのだ?」


「兵の集結を待っている所よ。さすが、長秀と政秀殿じゃ。手際が早くて、兵の到着が早い」


「で、伝令! 柴田勝家様の直属の部隊『鬼隊』が到着しました!」


「やっと来たか」


 伝令の声が聞こえたのか、奥の方から勝家が出て来る。


「鬼隊?」


「初めて会った時、戦場で見ただろ、鬼の集団」


「あぁ、いたな」


「あれは、勝家が自ら作った、鬼の部隊だ」


「妖怪の部隊なんて作れるのか」


「作れるけど、難しいな。妖怪の部隊を作るには、その妖怪に力を認めてもらわないといけない」


「力試しってことか」


「そういうことだ。勝家は、実際に鬼を倒して従わせた」


「すごいな」


「そこから、ついたあだ名は、『鬼柴田』だ。実際に鬼を従わせるなんて、勝家ぐらいしかいないさ」


 会話の内容を聞くに、妖怪を部隊に入れるのは、相当難しいことのようだ。


「お、話している間に、鬼隊がついたぞ」


 赤、青、黄色、様々な肌色に頭から生えた短い二本の角という人型の集団が現れた。


「あれが、鬼」


「相変わらず、いつ見ても迫力が凄いな」


「よく来たな、鬼ども! こっちだ!」


 勝家は、鬼を自分の陣に誘導する。


「利家は、妖怪を従わせているのか?」


「一応いるっちゃ、いるけど使える場所が限られていて、今回は役に立たない」


「そんなに限定的なのか」


「利家様、リン様」


 利家と俺が話していると、兵が俺に話しかける。


「どうした?」


「信長様が、軍議を開くので来てほしいってこと!」


 利家と、目を合わせた。


「わかった。すぐに向かう」


 利家の後について行き、信長がいる所に向かった。

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