第二・五章
禊中のもも
「なんで、私がこんな目に……」
私は、伊賀で、
「なんで、私が神社の掃除なんかしなくちゃ、いけないのよ」
手に持っている竹ぼうきで、神社の床を掃いていく。
「私のカラクリも全部破壊されちゃって使えない、本当に最悪よ」
全ては、あの斎藤家の刺客が悪いのよ。次に会ったら、塩を目にかけてやろうかしら。
「あのカラクリを直すには、伊賀まで戻らないといけないと。かと言って、半分追放みたいな感じで伊賀から出て行っているから、伊賀に入れさせてもらえる気がしない。はぁ、当分の間カラクリは、直すことはできないね」
カラクリなんかに頼らなくても、私は強いから、問題ないと思っておこう。
「桃ちゃーん。お祓いを受けに来た、お客さんに渡す、お守りの準備お願いできる?」
屋内で作業していた巫女に話しかけられた。
「今、準備するわよ」
袋に、お札と、お守りを入れる。そして、頼んできた巫女に、袋を渡す。
「ありがとうー!」
太陽の位置が真上に行きそう。てことは、今お昼。そろそろ、熱田神宮内の敷地内を掃除する時間ね。
勝負に負け、禊として熱田神宮で働き始めてから、一週間経つ。一週間経つと、なんとなく、やることがわかってきたわね。
「ほうき借りるわよ」
「あ、ちょうど掃除を頼もうとしていた所なの。ありがとうね」
巫女服を着た、お姉さんに感謝される。暗殺者という職業柄、感謝されたことがなく、上手い返事ができない。
「う、うん」
どこか、そっけない返事になってしまった。
熱田神宮内の敷地は広く、一人で全部を掃除しようとするのは難しい。人の往来が多く、人の目に留まりやすい所を掃除していこう。
「お、桃ちゃんー」
「今日も可愛いねー」
普通に働けていたら、楽なのに、熱田神宮にまで、私に会いにくる男達が増えてきている。仕事の邪魔にしか、ならないわ。
「ねぇ、ねぇ今日こそは、暇だろ?」
「一緒に飲もうよ」
「私は、巫女よ。あんた達と付き合っている暇ないわ」
「可愛いなぁー」
「ちゃんと、熱田神宮に来たんだから、参拝してよね」
「わかっているよー」
男達は、そう言うと、熱田神宮の本殿に向かって行く。
多分、この男達も懲りずに、また来るよね。早く、こんな仕事から抜け出したい。
「世の中にいるはずの王子様は、どこにいるのやら」
私の目が、ふし穴なのかしら。実は、もっと身近にいるとか?
「そんなわけないか」
「桃ちゃーん。お昼ご飯にしよー」
先輩の巫女に話しかけられて、お昼を食べることになった。
「今日は、熱田神宮に参拝しに来た地主から、野菜と米が奉納されたわ。これを食べましょ」
私が、食事するとこに行くと、巫女たちが集まって食事を配膳していた。
「みんなに行き渡ったかしら」
巫女は、食事が行き渡っているかを周り見て、確認している。
「うん。みんなに行き渡っているみたいね」
「早く食べよー」
「そう、急かさないの」
巫女達は、食事の時間を楽しみにしているようで、みんな和気あいあいと話している。
「いただきまーす」
「いただきまーす」
みんな、『いただきます』を言うと、食事を始めた。
「いただきます」
私は、未だに、この言葉を言うのがぎこちない。暗殺者をやっていた時は、決まった時間に、まとまった食事をする習慣がなかったのよね。合間、合間に小さな団子とか、そういう片手で食べられるのを、つまんでいた。
「ねぇ、ねぇ、桃ちゃん」
「な、なんですか?」
「あなたは、どこから来たのよ?」
「私は、伊勢国から来たわ」
さすがに伊賀国から来たとは、言えない。忍者だと、わかってしまうかも。
「伊勢国かいいね。海産とか美味しそう」
「う、うん。美味しいよ」
「伊勢国と言えば、隣に伊賀国あるよね」
「あー、あるわね」
「私、人生で一度でもいいから、忍者を見てみたいわ」
忍者は、目の前にいるわよ。さすがに、そうは言えないか。
「みんな、今日も元気そうだね」
「あ、神主!」
「利水さん、お疲れ様です!」
巫女達が、食事をしている所に神主の千秋利水が現れた。
「みんなの様子を見に来たよ」
利水は、そう言うと一人一人と軽く会話をする。
「どうだい、桃。働き始めて一週間経った気持ちは?」
「平和すぎて、退屈よ」
「ふふ、そうだろうね。熱田神宮の巫女なんて、なりたくても。なれない人が多い。桃にとって良い経験になると思うよ」
利水は、そう言うと、その場から立ち去って行く。
「利水さん、かっこいいわ」
「そうよね、なんであんなに、かっこいいのかしら」
巫女達は、利水にメロメロだった。
あいつ、巫女達の前だと善人になりきるよね。本当は、金のことにしか頭にない癖に。
「利水さんが、いなかったら私達、今頃、路上で餓死していたよね」
「そうだよね」
「命の恩人だわ」
そうか、巫女達が元気で、働けているのは、利水が金に貪欲であるおかげもあるのね。
「見方を変えると、悪人に見えた人が、善人にもなる」
「桃ちゃん、なんか言った?」
「う、うん? なにも」
危ない聞かれるところだった。
「よし、午後も頑張りますか」
「そうね、頑張ろう」
「おー!」
食事を終えた巫女達が、後片付けをすると仕事に戻る。
「私も、元の場所に戻るか」
『利水さんが、いなかったら私達、今頃、路上で餓死していたよね』
食事の後片付けをする。ふと、巫女達の会話を思い出した。
「仕方ないわね。二ヶ月、この神社のために働こうじゃないの」
私は、脱走せずに二ヶ月間働くことを決心し、仕事に戻った。
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